野菜は全般的に水分が多く、また、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維の補給源となることが多いのが特徴です。このコーナーではビタミン類のはたらきなどについて、一般的に知られていることをごく簡単にまとめています(用語はやや専門的です)。ミネラル類についてはこちらをご参照ください。
-野菜・果物は天然のビタミン供給源-
ビタミンは、生体機能を正常に働かせるために必須の微量栄養素です。私たちの体内では十分な必要量を作ることができず、食品などから補給しています。今のところ、脂溶性・水溶性を合わせて13種類が確認されています。
現代の一般的な日本人の食生活では、ビタミン欠乏症は少ないとされていますが、極端な食事制限や疾患などにより欠乏症を起こす可能性はあります。野菜と果物を含めて、食品は多種類組み合わせてバランス良く食べることがポイント。(でも、これが案外難しい、かも?!)
脂溶性ビタミン
油脂類に溶けやすいので、炒め物など油脂類と一緒に摂取すると吸収がよいビタミンです。水に溶けにくく身体にたまりやすい性質があるため、サプリメントなどの利用によって過剰症が起こる懸念があります。
Contents
ビタミンA
化学名:レチノール
生理作用:皮膚や粘膜を正常に保つ機能があります。また、成長・発育に必要で、目の網膜色素の成分にもなります。ビタミンAには、レチノール、レチナールなどがあり、これらは動物性食品に含まれます。一方、植物には生体内でビタミンAとしてはたらくプロビタミンAが含まれています。プロビタミンAの代表格は、野菜など植物性食品の色素として知られるカロテノイド(特にβ-カロテン)です。
1日あたり摂取推奨量(μgRAE*/日)1):
*レチノール活性等量
18~29(歳) 男性850 ─ 女性 650
30~49(歳) 男性 900 ─ 女性700
50~64(歳) 男性 900 ─ 女性 700
65~74(歳) 男性 850 ─ 女性 700
75 以上(歳) 男性 800 ─ 女性 650
授乳婦は+450
欠乏症:目の角膜や粘膜へのダメージ、夜盲症や免疫機能の低下など。こどもの場合、角膜乾燥症や感染症、成長障害に発展する可能性があります。
過剰症:短期間では吐き気、頭痛、めまいなど。長期的には中枢神経系への影響、肝臓の異常、骨や皮膚の変化、頭蓋内圧亢進症の発症などが挙げられます。妊婦では、胎児の奇形が知られています。
プロビタミンAの場合、体内で必要量がビタミンAとして変換されるため、通常の食事から摂取する分には過剰症の心配は少ないと考えられます。
ビタミンD
化学名:カルシフェロール。植物から生成されるビタミンD2 (エルゴカルシフェロール) 、動物から生成されるD3 (コレカルシフェロール)があります。
生理作用:食物から体内に取り入れたビタミンDは肝臓や腎臓で活性型ビタミンDとなり、カルシウムやリンの吸収や代謝に関与し、骨形成の促進に関与します。体内でのカルシウム濃度を一定に保つためにも、ビタミンDは欠かせません。
また、紫外線を受けることで皮膚のプロビタミンD3が体内でビタミンDになることも知られています。
1日あたり摂取目安量(μg/日):
18~75歳以上 男性、女性ともに 8.5
欠乏症:くる病(小児)、骨軟化症(成人)、骨粗鬆症(高齢者)
過剰症:血清中のカルシウムとリン濃度が高くなり、腎臓や筋肉へのカルシウムの沈着や軟組織の石灰化がみられるとされています。
ビタミンE
化学名: トコフェロール。天然にはα-、β-、γ-、δ-トコフェロールと、α-、β-、γ-、δ-トコトリエノールの8種類が存在します。血液および組織中に存在するビタミンEの大部分がα-トコフェロールであることから、食品成分表はα-トコフェロールをビタミンEとして表しています。
生理作用: 細胞膜に広く存在し、体内では多くの臓器や組織に蓄えられています。抗酸化活性を発揮していると考えられ、細胞内の情報伝達の調節、生体膜の安定化にも関与しています。毛細血管の収縮を防ぎ、血流をよくするとも考えられています。
1日あたり摂取目安量 (mg/日)1):
18~29(歳) 男性 6.0 ─ 女性 5.0
30~49(歳) 男性 6.0 ─ 女性 5.5
50~64(歳) 男性 7.0 ─ 女性 6.0
65~74(歳) 男性 7.0 ─ 女性 6.5
75 以上(歳) 男性 6.5 ─ 女性 6.5
妊婦 6.5
授乳婦 7.0
欠乏症:非常にまれ。無βリポタンパク血症(脂質の吸収が難しい遺伝性の難病)や、長期にわたり脂肪吸収障害があった場合は血漿中のビタミンE濃度が異常に低くなり、神経刺激の伝達低下、筋力低下、網膜変性などが起こることがあります。
過剰症:一般的な食事で過剰に摂取することはほとんどありませんが、サプリメントでは過剰摂取の可能性があり、死亡リスクが上がるという報告があります*。また耐容上限を超えると出血リスクがあり、特に血液をさらさらにする薬を服用している場合は注意が必要です。
*:Bjelakovic G, et al. JAMA. 2007; 297(8): 842-857.
ビタミンK
化学名: フィロキノン/メナキノン。フィロキノンは主に植物の葉緑体に含まれるもので、メナキノンは動物性食品や納豆菌や腸内細菌などの微生物が作り出すものです。
生理作用:肝臓で生成される血液の凝固因子の生成に不可欠。骨形成の調節や、動脈の石灰化を抑制する働きがあります。
1日あたり摂取目安量(㎍/日)1):
18歳以上の男女:150
欠乏症: 通常の食事ではまれ。脂肪の吸収障害や慢性的な胆道閉塞症や肝疾患などがあると、出血傾向や血液凝固の遅れが現れることがあります。新生児では出生時の備蓄が少なく腸内細菌がほぼないこと、母乳にはビタミンKが少ないことなどから、欠乏により出血性疾患の発生がみられることがあります(肝胆系の疾患があるケースが多い)。このため、赤ちゃんにはビタミンK2のシロップ投与を行うことになっています*。
過剰症:通常の食事では起こらないとされています。ただし、血液凝固を抑制しなければならない疾患のある人(血栓症や脳梗塞等)はビタミンKの摂取について医師と相談する必要があります。
*:日本産婦人科医会/日本産婦人科学会 ニュース「新生児の出血性疾患予防のためのビタミンK投与法について」(2021年)
水溶性ビタミン
水に溶けやすく、ゆでると水の中に溶け出てきます。しかし、そのゆで汁や煮汁を一緒に摂取すれば元のビタミンの多くを摂取することができます。また、過剰に摂取した場合は尿中に排泄されるため、通常は食事から摂取した水溶性ビタミンの過剰症を起こして健康を害する可能性は低いと考えられています。
ビタミンB1
化学名: チアミン
生理作用: 糖がエネルギーに変わるときに必要な補酵素。また分岐鎖アミノ酸代謝にも関与。分岐鎖アミノ酸とはBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)です。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性1.4 ─ 女性 1.1
30~49(歳) 男性 1.4 ─ 女性 1.1
50~64(歳) 男性 1.3 ─ 女性 1.1
65~74(歳) 男性 1.3 ─ 女性 1.1
75 以上(歳) 男性 1.2 ─ 女性 0.9
妊婦(付加量) +0.2
授乳婦(付加量)+0.2
欠乏症: 脚気(運動能力失調を呈する末梢神経障害)、ウェルニッケ脳症(眼球運動障害、小脳性運動失調、意識障害)。ブドウ糖摂取量の増加によるビタミンB1の需要が高まって起こることがあります1)。
過剰症: 特に報告されていません。
ビタミンB2
化学名: リボフラビン
生理作用: 糖質、脂質、アミノ酸がエネルギーに変わるときに必要な補酵素としての働きがあります。また、発育促進に関与しています。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性1.6 ─ 女性 1.2
30~49(歳) 男性1.6 ─ 女性 1.2
50~64(歳) 男性 1.5 ─ 女性 1.2
65~74(歳) 男性 1.5 ─ 女性 1.2
75 以上(歳) 男性 1.3 ─ 女性 1.0
妊婦(付加量) +0.3
授乳婦(付加量) +0.6
欠乏症:口内炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、成長障害など。食事からの摂取が不足したり、代謝異常、疾患 (肝疾患、下垂体疾患、糖尿病など)、薬の影響などでも起こることがあります。
過剰症: 過剰に摂取したB2は尿中に排泄されるため、過剰症の心配はないと考えて良いでしょう。尿中に排泄されると尿が黄色に変色します。
ナイアシン
化学名: ニコチン酸(植物性食品)+ニコチンアミド(動物性食品)
生理作用: ビタミンB群の一種。酸化還元反応の補酵素として作用するほか、脂肪酸の生合成、ステロイドホルモンの生合成に関与しています。体内でアミノ酸のトリプトファンからも生合成されます。皮膚を健康に保つ、消化管の働きを維持する、といった働きもあります。
1日あたり摂取推奨量(mgNE*/日)1):
18~29(歳)男性 15 ─女性 11
30~49(歳)男性 15─ 女性 12
50~64(歳)男性 14 ─女性 11
65~74(歳)男性 14 ─女性11
75 以上(歳)男性 13 ─女性 10
妊婦(付加量) +0
授乳婦(付加量) +3
*ナイアシン当量(NE)=ナイアシン+1/60 トリプトファン
欠乏症:ペラグラ(イタリア語で「粗い皮膚」を意味する)。主症状は皮膚炎、下痢、精神神経症状など。
過剰症:通常の食品を摂取する限りでは健康障害の発現の報告は見当たらないとされていますが、治療薬として大量投与された例では胃腸障害、肝臓障害が報告されています。
ビタミンB6
化学名: ピリドキシン
生理作用:アミノ酸代謝の補酵素。さまざまな体内の反応に関与する酵素の補酵素として働いています。免疫系の維持にも関与しています。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~75以上(歳) 男性1.4 ─ 女性 1.1
妊婦(付加量) +0.2
授乳婦(付加量) +0.3
欠乏症:舌炎、口角炎、リンパ球減少、免疫低下、精神錯乱等が知られています。日本人男性において低レベルのB6摂取が大腸がんの増加と関連があることが報告されています*。
過剰症:通常の食品を摂取する限りでは健康障害が発現したという報告は見当たりませんが、ピリドキシンの大量摂取で、感覚性ニューロパチーという健康障害が観察されたという報告があります**。
*:Ishihara J, et al. J Nutr. 2007; 137(7): 1808-1814.
**:Schaumburg H, et al. N Engl J Med. 1983; 309(8): 445-448.
ビタミンB12
化学名: コバラミン
生理作用: 奇数鎖脂肪酸(炭素数が奇数個の脂肪酸)やアミノ酸の代謝、葉酸の代謝に関与します。吸収されるためには胃の壁細胞から分泌される内因子と呼ばれる糖タンパク質が必要です。
1日あたり摂取推奨量(μg/日)1):
18~75 以上(歳) 男性 2.4 ─ 女性 2.4
妊婦(付加量) +0.4
授乳婦(付加量) +0.8
欠乏症: 悪性性貧血、しびれなどの末梢神経障害。
過剰症: 通常の食生活では過剰症は起こらないとされています。サプリメント等の場合でも体内で必要量が調節されているため健康障害の報告は見当たりません。
葉酸
化学名: プテロイルモノグルタミン酸
生理作用: ビタミンB群の一種。アミノ酸代謝、DNAやRNA合成に関与し、ビタミンB12とともに赤血球を作ります。成長・妊娠の維持にも重要な栄養素です。
1日あたり摂取推奨量(μg/日)1):
18~75 以上(歳) 男性 240 ─ 女性 240
妊婦(付加量) +240
授乳婦(付加量) +100
欠乏症: 巨赤芽球性貧血、神経障害、動脈硬化の引き金となる高ホモシステイン血症。妊娠初期に不足すると胎児の神経管閉塞障害(無能症、二分脊椎、髄膜瘤など)が起こるとされています。
過剰症:通常の食品を摂取する限りでは健康障害の発現の報告は見当たりません。
パントテン酸
化学名: パントテン酸
生理作用:ビタミンB群の一種。コエンザイムA(CoA)などの補酵素の構成成分として三大栄養素の代謝に関与しています。腸内細菌によっても合成されます。
1日あたり摂取目安量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性5 ─ 女性5
30~49(歳) 男性 5 ─ 女性 5
50~64(歳) 男性6 ─ 女性5
65~74(歳) 男性6 ─ 女性 5
75 以上(歳) 男性6 ─ 女性5
妊婦 5
授乳婦 6
欠乏症: ギリシャ語で「どこにでもある」という意味で命名されましたので、通常の食事で欠乏症は起こらないと考えられており、これまでに明確なパントテン酸欠乏症の臨床報告はありません。
過剰症:通常の食生活をしている限りでは健康障害の発現の報告は見当たりません。
ビオチン
化学名: ビオチン
生理作用: 糖新生、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、脂肪酸合成、エネルギー代謝などに関与しています。
1日あたり摂取目安量(μg/日)1):
18~75以上(歳) 男性50 ─ 女性50
欠乏症:成長停止や手足のしびれ、頭痛、筋肉痛、疲労など。ヒトでの欠乏症はまれで、生卵白を多量に摂取し続けると欠乏症を起こすことがあります。
過剰症:過剰に摂取しても速やかに尿中に排泄されるため一般的には起こらないとされ、健康障害が発現したと言う報告は見当たりません。
ビタミンC
化学名: アスコルビン酸
生理作用: 皮膚や軟骨などの結合組織のコラーゲン合成に必須。また、ホルモンやコレステロールの代謝、鉄の吸収などにも関与するほか、抗酸化作用をもっています。ヒトは体内で合成できず、過剰な摂取分は尿から排出されます。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~75以上(歳) 男性100 女性100
妊婦(付加量) +10
授乳婦(付加量) +45
欠乏症: 壊血病(疲労倦怠感、出血)。喫煙者や高齢者では血中のビタミンC濃度が低いことが報告されています。
過剰症: 一般的な食事では過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たりませんが、慢性腎臓病患者では過剰な補給により尿路結石、高シュウ酸血症をきたすという報告があります*,**。
*:Traxer O, et al. J Urol. 2003; 170(2 Pt 1): 397-401.
**:Massey LK, et al. J Nutr 2005; 135(7): 1673-1677.
ビタミン様物質
上述の13種類以外に、書籍や雑誌、インターネット上などで「ビタミン○○」と呼ばれている物質があります。しかし、これらはビタミンとしての定義づけはないため「ビタミン様物質」として区別しています。これらの中にはヒトの体内で生成できる物質も含まれており、食品からの摂取不足により欠乏症状があらわれるのかなど、研究途上のものも少なくありません。以下はその一例です。
ビタミンQ(ユビキノン)(コエンザイムQ10)
脂溶性のビタミン様物質であるコエンザイムQ(CoQ)の一種で、体内でも合成される。細胞内ミトコンドリアの電子伝達系に関係。心臓機能を保護する、アンチエイジングよい、などと言われている。
ビタミンP(メチルヘスペリジン、ルチン)
そば、イチジクに多く含まれ、血圧を下げる、毛細血管強くする、といわれている。
ビタミンU(キャベジン)
新鮮なキャベツの抗消化性潰瘍因子として発見された。Uは潰瘍を意味するulcerのU。
参考文献:
- 厚生労働省.『日本人の食事摂取基準』(2020年版)
- 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
- 日本ビタミン学会 編. 『ビタミン・バイオファクター総合事典』朝倉書店(2021年)
- 新しい食生活を考える会 編著.『食品解説つき 八訂準拠 ビジュアル食品成分表〈2020年版(八訂)〉』大修館書店(2021年)
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.「健康食品の安全性・有効性情報」https://hfnet.nibiohn.go.jp/
- 厚生労働省.「 e-ヘルスネット」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
- 上西一弘. 『栄養素の通になる〈第5版〉』女子栄養大学出版部(2022年)