一昨日の豪雨は、各地に大きな爪痕を残しました。
船橋在住の友人の畑は、豪雨で埋もれてしまったそうです。
丹精込めた土が、一晩の雨で姿を変えてしまう。
天災の恐ろしさを、あらためて思い知らされます。
それでも、木や植物は生き続けようとします。
先週、鈴木農園さんの畑の栗の木を見上げたら、もうこんなに立派ないがをつけていました。
夏の日差しをたっぷり浴びて、青々と力強く実っている姿。
台風や豪雨のたびに揺れながらも、また立ち上がる。そんな栗の木を見ていたら、「栗の一生」について、ちゃんと知りたくなりました。
■ 栗の一年
栗の木は、毎年こんなサイクルを繰り返しています。
春(5〜6月):
クリーム色の房のような雄花と、その根元にひっそりと咲く小さな雌花。独特の香りを放ちながら、風や虫の力を借りて受粉していきます。

夏(〜9月頃):
実がぐんぐん大きくなる時期。日差しと水分をたっぷり吸収して、いがの中でゆっくりと栗が育っていきます。今回撮った写真は、ちょうどこの時期の姿です。

秋(9〜10月):
緑色だったいがが茶色く色づき、やがて弾けます。地面に栗が落ち始めたら、収穫の合図。

冬:
葉を落として休眠期に入ります。静かに次の春を待つ時間です。
■ 栗の木としての一生
栗は、植えてから実がなるまでに何年もかかると言われています。
種から結実まではおよそ5年。そこから、幼木・若木・成木・老木と、年月をかけて成長していきます。
よく実をつけるのは若木から成木にかけての時期で、日本栗の場合、樹齢50年ほどから少しずつ実つきが弱くなっていくとも言われています。
note で連載している短編小説「畑の声」に登場する栗のおじいさんは、台風の夜、こう語りました。
「わしはこれで八十回目の台風じゃ。(中略)根さえしっかり張っておれば、倒れはせん」
物語の中の言葉ですが、実際の栗の木の寿命を知ると、あながち大げさな数字ではないのだと気づかされます。
何十年もその場に立ち続け、何度も嵐をくぐり抜けてきた木。うちの畑の栗の木も、きっとそういう時間を重ねてきたのだと思います。
■ 天津甘栗と、日本栗は別物だった
栗といえば、子どもの頃によく見かけた「天津甘栗」を思い出す方も多いのではないでしょうか。
実はあれ、日本栗とは別の品種です。

天津甘栗でおなじみの中国栗は、小ぶりで鬼皮がやわらかく渋皮もむきやすいのが特徴で、砂と一緒に炒って焼き栗にするのが定番。
「天津甘栗」という名前自体、中国の天津港から出荷される栗を指す呼び方です。
対して日本栗は、日本に古くから自生していた小粒の芝栗を、大粒で甘みが強くなるよう品種改良したもの。
鬼皮がかたく渋皮がむきにくい分、ゆで栗や栗ご飯、渋皮煮など皮ごと味わう食べ方に向いています。
■ 日本の栗の栄養
栄養面でも違いがあり、日本栗は甘栗に比べてカロリーが低くビタミンCが豊富。
甘栗はカリウム・葉酸・食物繊維がやや多めという傾向があります。
渋皮まで、まるごといただく
日本栗はタンニンが強いぶん渋皮が実にしっかりくっついていて、それが渋皮煮という食べ方につながっています。
渋皮に含まれるタンニンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用があり、老化や動脈硬化の予防に役立つと言われています。
むきにくいからこそ、手間をかけて渋皮ごといただく。それもまた、命を余すところなくいただくということなのだと思います。
■ 栗は敷地内で育ててもいいの?
以前ご紹介した「びわの言い伝え」では、敷地内にびわを植えると病人が出る、という言い伝えがありました。では栗はどうでしょうか。
栗の木は、昔から敷地や屋敷のまわりに植えられることが多い木でした。
「屋敷林」と呼ばれるこの仕組みは、もともとは防風・防雪のためのもの。台風や強風から家や畑を守る役目を果たしながら、同時に食料にもなる木を選んで植える、という暮らしの知恵です。
梅もまさにその代表格で、栗と梅はどちらも「防災」と「食用」を兼ねた、いわば一石二鳥の木として重宝されてきました。
しかも梅は初夏、栗は秋と実る季節がずれているので、季節を通じて実りが途切れないという理にかなった組み合わせでもあります。
以前泊まった山形の宿の近くでは、山に自生する栗や梅を、近所の奥さんたちが昔から拾い集めて売り物にしていたと聞きました。
屋敷林や里山の実りは、持ち主だけのものではなく、地域の暮らしを支える小さな糧にもなっていたのですね。
木材にも、食料にも、そして誰かの生活の支えにもなってきた栗の木。
「畑の声」の栗のおじいさんが、お父さんの代から植えられ、何十年もこの家を見守ってきたという設定も、こうした背景を思うとより自然に感じられます。
びわとは対照的に、栗は「植えるとよい木」として大切にされてきたのですね。
―――
お店で見かける栗は、何年もかけて育った木が、何度も台風をくぐり抜けた末に実らせた、たったひとつの実です。
実際に栗を拾ってみると、虫に食われたものも多く、大きさも形もさまざまです。
お店に並ぶような、大きくてきれいな栗ばかりが実るわけではありません。
そう思うと、お店できれいに並んでいる栗や、お菓子の中のつややかな栗は、もはや「奇跡の宝石」のようにも見えてきます。
一粒の栗の向こうには、木を育てた長い年月と、雨や風をくぐり抜けた季節、そして収穫して選び分けた人の手があります。
友人の畑のように、一晩で姿を変えてしまうこともある。
それでも木は、根を張ってまた立ち上がろうとする。
そんなことを、栗のいがを見上げながら考えた夏の日でした。
―――
🌰 栗の栄養メモ
・ビタミンB1、C、カリウム、食物繊維が豊富
・渋皮のタンニンには抗酸化作用があり、老化予防が期待できる
・日本栗は甘栗よりカロリー低め、ビタミンC豊富
・甘栗(中国栗)はカリウム・葉酸・食物繊維がやや多め
参考:文部科学省食品成分データベース、厚生労働省e-ヘルスネット
―――