野菜は全般的に、水分が多く、また、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維の補給源となることが多いのが特徴です。このコーナーではミネラル類のはたらきなどについて、一般的に知られていることをごく簡単にまとめています(用語はやや専門的です)。ビタミン類についてはこちらをご参照ください。
ー野菜・果物は天然のミネラル供給源-
私たちの身体を構成する酸素、炭素、水素、窒素以外の元素を総称してミネラル(無機質)と言います。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日の目安量や推奨量が1000mg以上のものを多量ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン)、1000mg未満のものを微量ミネラル(鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン)と分類しています。
ミネラルは生体機能を正常に働かせるために必須の栄養素です。ミネラル同士だけでなく、そのほかの栄養素とも互いに影響し合っていますので食品・栄養素はバランス良く摂取することが大切です。
ナトリウム
元素記号:Na
人体内での所在:主に細胞外液にナトリウムイオンとして存在。胆汁、膵液、腸液などの構成成分にもなります。多くは食塩(NaCl=塩化ナトリウム)として摂取されています。
生理作用:細胞外液量の維持、浸透圧の維持・調節、体内のpHバランスをとることなどに関与しています。
1日食塩相当摂取目標量(g/日)1):
18~75以上(歳) 男性7.5未満 ─ 女性 6.5
欠乏症:腎機能が正常であれば、体内で調節されるため、ナトリウム欠乏になることはなく、通常の食事を摂取する限り起こりません。下痢や嘔吐による低ナトリウム血症で錯乱、昏睡、けいれんなどが、大量発汗によるナトリウム損失で吐き気、筋肉痛、食欲不振などが現れます。
過剰症:むくみや口の渇きのほか、高血圧や胃癌・食道がんのリスクになることが知られています。高血圧は慢性腎臓病、循環器疾患の危険因子ですので、高血圧治療ガイドラインでは食塩の摂取目標を1日6g未満としています。
カリウム
元素記号:K
人体内での所在:主に細胞内液にカリウムイオンとして存在。
生理作用:浸透圧の維持・調節、体内のpHバランスをとることに関与。筋肉、特に心筋の収縮に関係しています。 ナトリウムを身体の外に出しやすくする作用があり、ナトリウム=塩分を摂り過ぎたときに調節するはたらきがあります。
1日あたり摂取目安量(mg/日):
18~75以上(歳) 男性3,000以上 ─ 女性 2,600以上
欠乏症:不足した場合、脱力感、食欲不振、精神障害、不整脈などの症状が見られることがあります。多量の発汗、利尿剤の服用以外ではカリウム欠乏を起こすことはないと考えられています*。
過剰症:腎機能が正常で、サプリメントなどで大量に摂取しなければリスクは少ないと考えられています*。
*:Preuss HG. Electrolytes: sodium, chloride, and potassium. In: Bowman BA, Russell
RM, eds. Present knowledge in nutrition, 9th ed, Vol. I. ILSI Press, Washington D.C.,
2006; 409-421.
カルシウム
元素記号:Ca
人体内での所在:体重の1~2%を占め、99%はリン酸塩・炭酸塩・フッ化物として骨と歯に含まれています。残りは血液や組織にカルシウムイオンとして存在しています。
生理作用:骨・歯などの硬組織の形成、血液の凝固作用、筋肉の収縮作用、神経の興奮性を適切に保つなどの働きがあります。
1日あたり摂取推奨量 (mg/日)1):
18~29(歳) 男性800 ─ 女性 650
30~49(歳) 男性 750 ─ 女性650
50~64(歳) 男性 750 ─ 女性 650
65~74(歳) 男性 750 ─ 女性 650
75 以上(歳) 男性 700 ─ 女性 600
欠乏症:骨軟化症、骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化症などを招くことがあります。
過剰症:高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、泌尿器系の結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが生じる場合があります*。
*:Institute of Medicine. Dietary reference intakes for calcium and vitamin D. National
Academies Press, Washington D.C., 2011.
マグネシウム
元素記号: Mg
人体内での所在:骨に50~60%、残りは筋肉や脳、神経組織などに存在しています。多くはマグネシウムイオンとして存在します。
生理作用:骨・歯などの硬組織の形成、酵素活性、神経の興奮、筋肉の収縮に関与しています。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性 340 ─ 女性 270 ─
30~49(歳) 男性 370 ─ 女性 290 ─
50~64(歳) 男性 370 ─ 女性 290 ─
65~74(歳) 男性 350 ─ 女性 280 ─
75 以上(歳) 男性 320 ─ 女性 260 ─
妊婦(付加量) +40 ─
授乳婦(付加量) +0
欠乏症: 通常の健康状態、食事ではまれ。体内でマグネシウムが欠乏すると腎臓からのマグネシウム再吸収が進むとともに、骨からマグネシウムが遊離して利用されます。低マグネシウム血症になると吐き気、嘔吐、食欲不振、筋肉のけいれんなどの症状が現れることがあります。
過剰症:過剰なマグネシウムは腎臓で排泄されますが、腎臓病などの場合は、血液中のマグネシウム濃度が高くなります。サプリメントなどで過剰に摂取すると下痢を起こすことがあります。
リン
元素記号: P
人体内での所在:約85%はリン酸塩として骨や歯の成分として、約14%がリン酸エステルとして軟組織や細胞膜、1%が細胞外液に存在します1)。
生理作用:リン酸塩として体液pHバランスを保っています。カルシウムとともに骨格形成に関与するほか、エネルギー代謝、脂質代謝に重要な栄養素です。
1日あたり摂取目安量(mg/日)1):
18~75 以上(歳) 男性1,000 女性800
欠乏症:通常の健康状態、食事ではまれですが、食事性以外の原因でリンが不足すると骨軟化症、くる病などを起こすことがあります。
過剰症:食品添加物として特に加工食品には多くのリンが使用されているため、知らないうちに多く摂取している可能性があります。過剰に摂取すると副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンDなどによって腎臓からリン排泄が促され、血中のリン濃度が基準範囲内になるように調節されています。しかし腎機能が低下するとリンが十分に尿中に排泄されず、血中リン濃度が高くなってしまうため、リンの摂取を制限する必要があります。高リン血症自体の自覚症状はないとされています。
鉄
元素記号: Fe
人体内での所在:70~75%は酸素運搬や酵素機能を果たす機能鉄、25~30%は貯蔵鉄です。機能鉄の多くがヘモグロビンとして赤血球中に存在します。貯蔵鉄はフェリチンなどとして肝臓、脾臓、骨髄などに存在します。
生理作用: 赤血球の中のヘモグロビンは血色素であり、酸素の運搬に重要な働きをしているほか、各種酵素の成分となり代謝に関与しています。ビタミンCは鉄の吸収を促進、お茶などに含まれるタンニンは吸収を阻害することが知られています。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性7.5─ 女性 月経なし6.5 月経あり10.5
30~49(歳) 男性 7.5 ─ 女性 月経なし6.5 月経あり10.5
50~64(歳) 男性 7.5 ─ 女性 月経なし6.5 月経あり11.0
65~74(歳) 男性 7.5 ─ 女性 月経なし6.0
75 以上(歳) 男性 7.0 ─ 女性 月経なし6.0
妊婦(付加量)
初期 +2.5
中期・後期 +9.5
授乳婦(付加量) +2.5
欠乏症: 代表的な欠乏症は鉄欠乏性貧血で、症状は息切れ、めまい、さじ状爪、異食症、運動機能や認知機能等の低下などですが、重度にならなければ自覚症状として現れません。欠乏症は乳児、月経のある女性、妊産婦にリスクがあります。
過剰症:通常の食事では過剰症はほとんど起きませんが、サプリメント等の使用で便秘、胃腸障害、亜鉛の吸収阻害などが起こる可能性があります。高齢者女性のサプリメント使用と総死亡率との関連を検討した疫学研究において、鉄サプリメントが総死亡率を上昇させることが認められる*など、過剰摂取により健康障害の恐れがあるため、摂取基準では上限値が決められています。
*:Mursu J, et al. Arch Intern Med. 2011; 171(18): 1625-1633.
亜鉛
元素記号:Zn
人体内での所在:多くの酵素に含まれ、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに存在しています。
生理作用: 各種酵素の成分として遺伝子発現やたんぱく質合成など細胞の成長と分化に関与するほか、免疫機能、骨代謝の調節などにも関与しています。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳) 男性11 ─ 女性 8
30~49(歳) 男性11 ─ 女性 8
50~64(歳) 男性 11 ─ 女性 8
65~74(歳) 男性 11 ─ 女性 8
75 以上(歳) 男性 10 ─ 女性 8
妊婦(付加量)+2
授乳婦(付加量) +4
欠乏症:皮膚炎、味覚障害、慢性下痢、免疫機構障害、成長遅延などで、食事からの摂取不足、需要の増加、排泄の増加などによって起こることがあります。
過剰症:通常の食生活で過剰摂取が生じる可能性は低いとみられていますが、継続的な過剰摂取によって、銅や鉄の吸収阻害から起きる貧血*、胃の不快感**などを起こすことがあります。
*:Prasad AS, et al. JAMA. 1978; 240(20): 2166-2168.
**:Fosmire GJ. Am J Clin Nutr 1990; 51(2): 225-227.
銅
元素記号:Cu
人体内での所在:約65%は筋肉や骨、約10%は肝臓に分布しています*1。
生理作用: 銅は酵素として、酸素の運搬、エネルギー産生、鉄代謝(造血などにも関与)、神経伝達物質の産生、活性酸素除去などに関与しています*2。
1日あたり摂取推奨量(mg/日)1):
18~29(歳)男性 0.9 ─女性 0.7
30~49(歳)男性 0.9 ─女性 0.7
50~64(歳)男性 0.9 ─女性 0.7
65~74(歳)男性 0.9 ─女性 0.7
75 以上(歳)男性 0.8 ─女性 0.7
妊婦(付加量)+0.1
授乳婦(付加量) +0.6
欠乏症:一般的な食生活では起こりにくいとされますが、銅貧血、白血球の減少、脊髄神経系の異常、発達期の骨形成障害などがみられます*3,*4。先天的遺伝性疾患による銅の吸収障害で重篤な中枢神経障害、発育遅延、結合組織の異常などがみられます*5。
過剰症:先天性のウイルソン病では、肝臓、脳、角膜等に銅が蓄積し、肝機能障害、神経障害、間接障害などをきたしますが*5、通常の食生活では体内で銅の恒常性は調整されており、過剰摂取による臨床症状は報告されていません。
*1: Bost M, et al. J Trace Elem Med Biol. 2016; 35: 107-115.
*2: Prohaska JR. Copper. In : Erdman JW Jr, Macdonald IA, Zeisel SH, ed. Present knowledge in nutrition 10th ed. Wiley-Blackwell, 2012: 540-553.
*3: Fujita M, Itakura T, Takagi Y, et al. JPEN. 1989; 13(4): 421-425.
*4: Myint ZW, et al. Ann Hematol. 2018; 97(9): 1527-1534.
*5: Kaler SG. Handb Clin Neurol 2013; 113: 1745-1754.
マンガン
元素記号: Mn
人体内での所在:約25%は骨に、残りは生体内組織や臓器にほぼ均等に分布しています*。
生理作用:さまざまな酵素の構成成分として、骨代謝、糖代謝、脂質代謝などに関与しています*。
1日あたり摂取目安量(mg/日)1):
18~75 以上(歳)男性 4.0 ─ 女性 3.5
欠乏症: 通常の健康状態、食事ではまれ。動物による研究では成長障害、骨格異常、妊娠障害などが報告されています。
過剰症:通常の健康状態での食生活では、過剰症は起こらないと考えられますが、日本人成人のマンガンの摂取量は欧米人よりも多く、必要量を上回っていると推定されています。サプリメントの不適切な利用に加えて、豆類や穀物類を多く摂取する特殊な摂取状況では過剰摂取が生じる可能性があります。完全静脈栄養による過剰症では血中濃度の上昇とマンガンの脳蓄積によってパーキンソン病様の症状が現れたことが報告されています**。
*: Nielsen FH. Manganese, molybdenum, boron, chromium, and other trace elements.
In: Erdman JW Jr, Macdonald IA, Zeisel SH, ed. Present knowledge in nutrition 10th
ed. Wiley-Blackwell, 2012: 586-607.
**: Ejima A, et al. Lancet. 1992; 339(8790): 426.
ヨウ素
元素記号: I
人体内での所在:70~80%は甲状腺に甲状腺ホルモン(チロキシン)として存在します*。
生理作用:甲状腺モルモンの構成要素として、成長、生殖、発育などの生理的プロセスを抑制し、エネルギー代謝を亢進させます*
1日あたり摂取推奨量(μg/日)1):
18~75 以上(歳)男性130 ─ 女性 130
妊婦(付加量)+110
授乳婦(付加量) +140
欠乏症:甲状腺悲劇ホルモンの分泌亢進、甲状腺の異常肥大や甲状腺腫を引き起こし、甲状腺機能を低下させます*。ヨウ素は海産物に多く含まれるため、世界的には海産物を食べられない内陸の地域では欠乏症がみられます**
過剰症:ヨウ素は海藻類、特に昆布に高濃度に含まれます。海藻類を始めとする海産物の摂取が多い日本人は、世界でもまれなヨウ素の高摂取量集団です。そのため、ヨウ素の過剰摂取に注意する必要がありますが、日本においては明らかに特殊な昆布摂取が行われた場合に、甲状腺機能低下や甲状腺腫が認められたと報告されています1)。
*: Zimmermann MB. Iodine and iodine deficiency disorders. In : Erdman JW Jr, Macdonald IA, Zeisel SH, ed. Present knowledge in nutrition 10th ed. Wiley-Blackwell, 2012: 554-567.
**: WHO ホームページ NUTRITION LANDSCAPE INFORMATION SYSTEM (NLiS)
https://www.who.int/data/nutrition/nlis/info/iodine-deficiency
セレン
元素記号:Se
人体内での所在:酵素やたんぱく質の一部を構成し(セレノプロテイン)存在しています。、食品中もセレンを含むアミノ酸の形態で存在しています。
生理作用: 酵素の構成要素として、また甲状腺ホルモン代謝、抗酸化反応などに重要な役割を担っています。
1日あたり摂取推奨量(μg/日)1):
18~75 以上(歳) 男性 30 ─ 女性 25
妊婦(付加量)+5
授乳婦(付加量) +20
欠乏症: 通常の食生活で欠乏症を起こすことは、日本ではほとんどありません。セレン不足は土壌中のセレン濃度が低い土地で摂取不足が起きると考えられ、心筋障害を起こすケシャン(克山=中国東北部)病、やカシン・ベック病(地方病性変形性骨軟骨関節症)などが知られています。
過剰症:セレン含有量が高いのは魚介類で、通常の食生活では過剰摂取が生じる可能性は低いのですが、サプリメントなどの不適切な利用で過剰摂取が起きる可能性はあります。慢性セレン中毒で高頻度の症状は爪がもろくなる、脱毛などです。そのほかには胃腸障害、皮膚症状などです。
クロム
元素記号:Cr
人体内での所在:肝臓、腎臓、肺などに存在します
生理作用:糖質代謝、コレステロール代謝、結合組織の代謝、脂質代謝に関与。動物実験の結果から、インスリン作用を増強すると考える説があります。
1日あたり摂取目安量(mg/日)1):
18~75 以上(歳) 男性 10 ─ 女性 10
欠乏症:耐糖能異常、体重減少
過剰症:通常の食品で過剰摂取が生じることは考えにくいものの、サプリメントによる長期の過剰摂取では、嘔吐、下痢、腹痛、腎尿細管、肝臓、中枢神経等への障害が起こる可能性があります。クロムのうち、食品に含まれるのは3価クロムで、自然界にはほとんど存在しないものは6価クロム。こちらは毒性が強いものです。
モリブデン
元素記号::Mo
人体内での所在:肝臓、腎臓などに多く分布します。
生理作用:プリン体から尿酸への代謝に関わるキサンチンオキシダーゼなど、さまざまな酵素を活性化させる補酵素の構成成分として機能しています。
1日あたり摂取推奨量(μg/日)1):
18~29(歳)男性 30 ─女性 25
30~49(歳)男性 30 ─女性 25
50~64(歳)男性 30 ─女性 25
65~74(歳)男性 30 ─女性 25
75 以上(歳)男性 25 ─女性 25
妊婦(付加量)+0
授乳婦(付加量) +3
欠乏症:通常の健康状態、食事ではまれですが、モリブデンをほとんど含まない完全静脈栄養を続けたクローン病の患者が、神経過敏、昏睡、頻脈などを起こしたことが報告されています*。
過剰症:モリブデン中毒に関する研究は少ないのですが、過剰に摂取しても、速やかに排泄されるため、健康な人の通常の食生活では過剰症は起こらないと考えます。また、慢性腎臓病の小児や人工透析を受けている患者さんでは血清のモリブデン濃度が上昇しているという報告があります1)
*: Abumrad NN, et al. Am J Clin Nutr. 1981; 34(11): 2551-2559.
参考文献:
- 厚生労働省.『日本人の食事摂取基準』(2020年版)
- 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
- 新しい食生活を考える会 編著.『食品解説つき 八訂準拠 ビジュアル食品成分表〈2020年版(八訂)〉』大修館書店(2021年)
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.「健康食品の安全性・有効性情報」https://hfnet.nibiohn.go.jp/
- 厚生労働省.「 e-ヘルスネット」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/