【春野菜物語】タマネギ・新たまねぎ A story of spring vegetables: new onions

タマネギは、主役になることは少ないながらも出番が多い名脇役。4月ころからは新タマネギがたくさん出回ります。2022年は、干ばつの影響などで小玉傾向にあり、価格もその他さまざまな要因によりかなり高騰したタマネギ。さて、今年(2023年)はどうでしょう。農水省の5月の発表によれば、北海道では収穫と貯蔵が完了し、他の主産地では生育が順調とのこと。出荷数量、価格はともに平年並みで推移する見込みだそうです。使う頻度が多い野菜だけに、少し安堵しました。

タマネギの原産地・歴史

5000年以上昔から栽培され、今ではほぼすべての国に広まっている

タマネギの原産地は中央アジアとみられており、古代メソポタミアや古代エジプト時代には食されていたようです。タマネギは栽培しやすく乾燥に強いことなどから、徐々に世界各地に広がっていったと考えられます。

最初は観賞用だった?!

日本へは江戸時代に伝えられましたが当初は観賞用にとどまったそうです。食用として栽培が始まるのは明治以降。北海道と大阪で本格的に栽培試験を重ねて、米国から導入した品種は「札幌黄」(北海道)、「泉州黄」(大阪府)、フランス由来の品種から早生白品種(愛知県)などが誕生し、これらが日本のタマネギのベースとなったようです。

タマネギの生産地・分布

世界の生産状況

Food of Agriculture Organization(FAO)の2021年の統計によると、タマネギ(Onions and Shallots, dry)の世界総生産量は約1億660万トンでした。その内訳は、インド25%、中国が23%で、この2つの国で世界の半分近くを生産しています。下図は16位以降を「その他」としてまとめているので、このグラフでは見えませんが、日本は20位でした。

世界のタマネギ生産量 約1億660万トン(2021年) 内訳  (FAOSTATより作成)
*The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#home

国内の生産状況

日本における令和3年度の総収穫量は約1,0960,00トン。そのうち北海道が63%でトップの収穫量。次いで佐賀県(10%)、兵庫県(10%)、長崎県(3%)、愛知県(3%)と続きました(下図)。

日本のタマネギの収穫量 1,096,000トン(令和4年度)都道府県内訳 (農林水産省 作況調査より作成)

旬はいつ?

平成25~29年の東京都や大阪府の中央卸売市場出荷状況*を参照すると、1年でもっとも多く出回るのは4月と5月で、新タマネギがどっと出てくる期間です。5月~7月の間は、東京、大阪市場ともに、北海道産の供給がとても少なくなります。

*独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』たまねぎ(2019年)

タマネギのすがたかたち・種類

タマネギのどこを食べているの?

私たちがタマネギとしてふだん食用にしているのは、根でも茎でもなく「りん茎」という葉が何枚も重なった部分。秋に苗を植えて翌年の初夏に鱗茎が土の上にでき、そのまま育つと鱗茎から出た芽が1mほど伸びてその先に花を咲かせます。寒冷地では春に植えて秋に収穫します。

タマネギの品種

形から球形種、扁平種、卵形種に、色から黄色、赤色、白色種にそれぞれ大別できます。日本でもっとも多く出回っているのは、黄色種(黄タマネギ)です。そういえば、赤紫のタマネギは「アーリーレッド」などの表示がありますが、主流の黄タマネギの品種名まで表示されていたことはないように思います。せいぜい新タマネギの時期に「新たまねぎ」と書いてあるくらいです(それは見たらわかりそうですが)。

【タマネギの種類】

黄タマネギ

一般的なタマネギ。辛みがあり保存性が高いのが特徴。春まきの札幌黄、秋まきの泉州黄が主な品種です。

黄タマネギの新タマネギです

赤タマネギ

レッドオニオンまたは紫タマネギともいわれ、辛みや刺激中が少ないため、生食向き。酢により赤色が鮮やかになります。

赤タマネギ

白タマネギ

極早生種で、水分が多く辛みが少なく柔らかい。貯蔵には不向き。

ペコロス(小タマネギ)

黄色タマネギの苗を密植すると、直径4cmほどの小さなタマネギができます。シチューなどに。

シャロット

黄タマネギをやや小さく、細長くした形で、ニンニクのように数個に分球しています。フラスン語では“エシャロット”というので、このシャロットを「ベルギー・エシャロット」と呼んだり、若採りのラッキョウを「エシャレット(またはエシャロット)」と呼んで区別しています(ややこしいですね)。

葉タマネギ

りん茎が大きくなる前に葉を付けたまま収穫したもの。見た目は長ねぎの根元に小さなタマネギが付いている感じです。柔らかくて辛みが少ない葉を一緒に食べることができる春先の短い期間だけ出回るタマネギです。

葉タマネギ

どんなタマネギがおいしいの?

日本のタマネギは、秋に収穫するもの(おもに北海道産)と春から初夏にかけて収穫するもの(本州産)に分けられ、通常は収穫後に約1か月乾燥させてから出荷されます。新タマネギは、3~4月頃に収穫され乾燥されずに出荷されるタマネギの総称です。みずみずしくて肉質が柔らかく辛みも少ないのでサラダなどの生食に向いています。

一般的なタマネギは、球全体か締まっていて重みのあるもの、首の部分は乾燥して細く締まっているものがよいとされています。柔らかいものは内部が傷んで腐っていることがあるのでご注意を。根が伸びていないもの、皮はよく乾いていて傷がないもの、つやがあるものを選びましょう。

タマネギの取り扱い・保存方法

新タマネギは野菜庫に

黄タマネギを家庭で保存する場合は一つ一つ新聞紙で包み、かご等に入れて風通しのよいところで保存する。新聞紙ではなくネットに入れてつるしても。皮を剥いたものはキッチンペーパーで、使いかけはラップに包んで冷蔵庫で保存します。

外皮を乾燥していない新タマネギは生鮮野菜と同じですので、冷蔵庫の野菜室に入れて1週間以内に使い切りましょう。

冷凍保存できる?

薄切り、みじん切り、くし形など使いやすい大きさにカットし、平らにして冷凍用の保存袋に入れて、冷凍します。調理するときは凍ったまま加熱するとよいです。

栄養・その他注目の成分

野菜の中では炭水化物が多め

タマネギには、たんぱく質や特定のビタミンまたはミネラルが多い、といった栄養学的な特徴はありません。強いて言えば一般的な野菜より炭水化物がやや多く、生の可食部100gあたり約8g、そのためエネルギーが33kcal、ということくらいです。ですが、タマネギ特有の辛みや香りになどに、健康に役立つとして注目されている成分があります。

独特の辛味や匂いの成分は

ネギ類特有の匂い成分としてよく知られているのがイオウ化合物「硫化アリル」ですが、辛みや匂いの成分は実は複数あり、また、酵素が作用して名称が変化するので非常に複雑。たとえば、ビタミンB1の吸収を高めるといわれる「アシリン」は硫化アリルの一種である「アリイン」に、アリイナーゼという酵素が作用してできた揮発性物質のジアリルスルフィドのこと。タマネギを切ると出てくるツンとした匂いとそれにともなってじんわりあふれてくる涙の、アレです。

抗菌・殺菌作用、血液凝固抑制作用、抗酸化作用、血中コレステロール低下作用、疲労回復、などの働きが基礎実験の結果などを含めて多数報告されています。アリシンは水溶性で、安定しない化合物のため、空気に触れさせたり、水さらしをすると減少します。一方、ビタミンB1(チアミン)と結合すると安定化して分解酵素の影響を受けにくくなるので、ビタミンB1がより体内に吸収されやすくなる、とされています。アリシンはタマネギだけでなく、ニンニクやニラ、ネギ類にも共通する成分です。

また加熱すると辛み成分は揮散するため、本来含まれている糖分(炭水化物)の甘味が感じられます。独特の香りから、香味野菜としても使われ、煮込み料理や肉料理のにおい消し、薬味、オニオンパウダーとしても利用されます。

外皮でお茶を

外皮に多く含まれるケルセチンというポリフェノール類もその抗酸化作用などに注目が集まっており、皮を煮出したタマネギ茶が健康茶として知られるようになりました。赤玉ねぎなら、紫色のポリフェノール、アントシアニンも含まれていますので、さらに多くの抗酸化成分の摂取が期待できるでしょう。

個人的には今の季節は生でも辛くない新タマネギや葉タマネギをただただ楽しみたいと思います。

タマネギのデータ

分類:葉茎菜類a)b)

英名:Onion, Bulbc)

学名:Allium cepac)

漢字表記:玉葱(たまねぎ)、頭葱(あたまねぎ)、西洋葱(せいようねぎ)d)

科名:ヒガンバナ科d)

原産地:中央アジアd)

<出典>

a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)

b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)

c)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年3月参照)

d)板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)

【栄養成分】

*1:レチノール活性等量、*2:α-トコフェロール、*3:ナイアシン当量、( )は推定値

く)

文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』に基づく

<出典・参考文献>

1)板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)

2)マーサ・ジェイ著, 服部千佳子訳.『タマネギとニンニクの歴史』原書房(2017年)

3)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 編著. 『農業技術事典 NAROPEDI』』農山漁村文化協会(2006年)

4)独立行政法人 農畜産業振興機構.『野菜ブック』(2019年)

5)澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)

6)島本美由紀, 『野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!』小学館(2020年)

MINORI(管理栄養士)

MINORI(管理栄養士)お野菜のこと、もっと知って美味しく食べよう!

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健康のためにはしっかり野菜を食べなきゃ。こどものころからそう教えられ、さらに専門的に学習し、以来、野菜を意識的に摂るようになっています。たぶんそれは、大事なことなんだと思います。ですが、まずはおいしく食べたいものです。おいしかったらきっと楽しいし、たくさん食べたくなります。
お店に並んでいる野菜だけでなく、畑で育つ野菜にも出会って、野菜を知るとおいしく食べられそうな気がしています。

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