最近、ますます日差しが強くなり、太陽が上から照りつけるようになってきました。家の中にいても入り込む光の量がだんだん減って、夏が近づいて来たことを予感させます(お肌には紫外線が心配になりますが)。夏にかけて旬を迎える野菜は果菜類が多くなります。指定野菜のうち、果菜類はトマト、ナス、ピーマン。今回はピーマンの物語を紡いでいきます。
※野菜の名前について、原則的に「野菜物語」の本文ではカタカナ、レシピではひらがな/漢字で表記していきます
Contents
ピーマンの原産地・歴史・種類
中・南米原産のトウガラシが起源
ピーマンは中・南米の熱帯地方が原産のトウガラシの一種です。トウガラシはコロンブスがアメリカ大陸を発見する15世紀より前からメキシコで広く栽培されていました。インドのコショウを求めていたコロンブスでしたが、アメリカで偶然に手に入れたトウガラシをコショウに代わる香辛料としてスペインに持ち帰り、その後、世界各地に広まっていったと考えられています。日本にはポルトガル人によって16世紀にもたらされたという記録がありますが、伝播ルートはひとつではなかった可能性があります。
一方、1774年に大きくて辛味のない肉厚のトウガラシ「ベル」種がアメリカで誕生しました。この辛くないトウガラシ全般を日本ではピーマンと呼ぶようになりました。ピーマンとはフランス語Piment(ピマン?)に由来しているようです。
日本の主流は薄肉中型種
現在の一般的な「ピーマン」は薄肉中型種と呼ばれる、未熟な状態で収穫する緑色のものです。古くから(といっても江戸時代だと思われますが)栽培されていた甘系トウガラシの小型種「シシトウガラシ」と欧米の大型種を交配し、さらに中国種などを交配して改良が進んだとされています。ピーマンが家庭の食卓に普及するようになったのは昭和30年以降のことで、ナス科の野菜の中では最も戦後消費量が伸びた作物なのだそうです。また、ピーマンは熟すと赤くなります。緑のピーマンより甘味が強く、匂いが少なくなりますが、日持ちしません。
また、苦味を押さえた肉厚の小型のこどもピーマン(タキイ種苗「ピー太郎(R)」)が開発されています。当初この記事をアップしたときは「店頭で見かけたことがない」と書いていましたが、8月中旬、「農家さんからの特別便」という体裁の、少し珍しい野菜が並ぶコーナーで発見(写真)。確かに肉厚ですがパプリカと比べるとより固く、甘味がない印象。苦味はないけれど。
カラーピーマンとパプリカの違いは?
カラーピーマンとは、一般的な緑色以外のピーマンの総称です。赤、黄、オレンジ、黒、紫、茶、白の7色があり、赤、黄、オレンジおよび茶は果実が熟した色で、それ以外の黒、紫、白、緑は未熟果の色です。
果実の形、大きさ、果肉の厚さなどにより「パプリカ」「ジャンボピーマン」「トマトピーマン」「小型カラーピーマン」「くさび型ピーマン」の5種類に分けられます。つまり、パプリカはカラーピーマンの1種なのです。パプリカは1個170g程度、小型カラーピーマンは1個80g以下のものを指します。
パプリカは、アメリカで改良されたベル種の大型ピーマンがオランダで改良され、1970年代に完成したとされています。日本では1993年の輸入解禁とともに普及が拡大しました。パプリカは皮の部分の果肉が厚く、赤、オレンジ、黄が一般的に流通しています。
その他のピーマンの仲間
シシトウガラシ
果実の先端が獅子の頭に似ていることから名付けられた甘味種のトウガラシ。「ししとう」とも呼ばれます。ピーマンと同様に緑色のものは未熟なうちに収穫されたもので、焼いたりあぶったりして食べることが多いと思います。辛くないとはいえ、10本に1本くらいの確率で辛いシシトウに当たります。まるでロシアンルーレットのようです。
大型甘味トウガラシ
「万願寺唐辛子」(「万願寺甘とう」は地域団体商標として登録された商品名で、京都府内でも発祥地の舞鶴市および綾部市と福知山市の一部を加えた地域のみに限られています)は、大型で肉厚の辛くないトウガラシです。日本在来種である甘種トウガラシ「伏見甘長」と海外品種との自然交雑により誕生したと考えられています。こちらの甘味トウガラシも、ごくたまに辛いものに当たります。辛いものを食べたときは、大当たりだから近々何かいいことがあるぞ、と考えるようにするといいですね。
ピーマンの生産地・分布
世界の生産状況
Food of Agriculture Organization(FAO)のデータを調べてみたところ、野菜として食べるピーマンとトウガラシが一緒になって集計されていましたので、今回は割愛します。ちなみに、2021年は、ベトナム、ブラジル、インドネシア、ブルキナファソ、インド、が主要生産国(多い順)でした11。
国内の生産状況
日本における令和4年度のピーマン(シシトウガラシ含む)の総収穫量は約150,000トンでした7。その割合をみてみると、茨城県がトップで22%。次いで宮崎県(19%)、高知県(9%)、鹿児島県(9%)と続きます。以降は岩手県(6%)、大分県(5%)、北海道(4%)、青森県(2%)という結果でした7。(図)
入荷量のピークは5月と9月
農畜産業振興機構の資料によると、東京都中央卸売市場、大阪中央卸売市場ともに、シシトウを含むピーマンの入荷量が最も多い月は5月でした9,14。一方、パプリカは多くが輸入であり、令和4年に東京に入ってきた7割が韓国産。ピークは7月でした12。
ピーマンの産地は夏と冬で違いがあります。東京の市場では年間を通して茨城県産が多くを占めていますが、夏は岩手、福島、青森県産などの東北地域、冬は宮崎や高知県産など南西地域からが多くなります。
ピーマンのすがたかたち・特性
ピーマンの中身が空洞なのはなぜ?
ピーマンは、トウガラシの辛味をなくして改良された野菜です。トウガラシは、果実の部屋を分ける隔壁部分に辛味成分「カプサイシン」(正確にはカプサイシンだけでなくその関連物質も含まれた成分)が合成蓄積されます。ピーマンやパプリカなどは、このカプサイシン合成経路の遺伝子に異変が起こり辛くなくなったもの。さらに改良によって皮の部分を多く食べられるようにした結果、空洞が多くなったと考えられます。
どんなピーマンがおいしいの?
ピーマンが嫌われる(特に子どもたちに)原因は、その独特の青臭さと苦味です。味にはお好みがあるので「おいしい」かどうかはおいておいて、苦味が少ない新鮮な緑のピーマンは、
- 肩が張って盛り上がり、バランスのよい逆三角形
- 淡い緑色で、つやつやしている
- ヘタや軸の切り口が鮮やかで黒くなっていない
- ヘタが六角形(苦味が少ない。一般的には五角形)
とされています。新鮮さが失われると苦味が出てきます。 パプリカを含むカラーピーマンの鮮度の見極めもピーマンと同様で、ヘタや軸の切り口や外観の皮の様子がチェックポイント。ヘタの周りに黒ずみがないか、皮に傷がないかも合わせてチェックを。
ピーマン・パプリカの保存方法
水分を避けて野菜室へ
ピーマンは水気を嫌い、暑いところが得意な野菜です。2、3日なら室温保存でもOKです。買ってきたままポリ袋に入れて冷蔵庫(野菜室)にしまうと、結露してピーマンに水が着いてしまう可能性があるので、2~3個ずつキッチンペーパーで包み、数か所竹串などで穴を開けたポリ袋に入れて野菜室で保存しましょう。洗って保存する場合は水気を拭き取ってからしまってください。2週間程度は新鮮さが保たれます。赤いピーマンは、完熟したもの。保存方法は緑のピーマンと同様ですが、日持ちしないため1週間以内に使い切りましょう。
パプリカはピーマンより肉厚で水分を多く含みます。ワタ周辺から傷みますので、保存の際は縦半分に切り、種とワタを取り除きます。切り口を湿らせたキッチンペーパーに当ててポリ袋に入れ、切り口を下にして野菜室で保存します。カットすると鮮度が落ちますので、数日以内に使い切りましょう。
冷凍するときは
ピーマン
ヘタとワタを切り取り、水分を拭き取ってから使いやすい大きさに切り、重ならないように冷凍用保存袋に入れて冷凍庫に。
丸ごと冷凍も可能です。洗って水分を拭き取り、1つずつラップに包んで冷凍袋に入れて保存します。室温に戻して半解凍状態になったら切って使います。あまり長く置くと水分が出てきてしまうのでご注意ください。通常、5分ほどで刃が入ります。
パプリカ
洗って水分を取り、ヘタ、ワタ、種を取り除き、千切りなどよく使う形でカットします。平らにして保存袋に入れ、冷凍庫に。いため物や煮物に使う場合は凍ったまま鍋に投入できます。
冷凍保存の場合は2か月以内を目安に使い切りましょう。
栄養素・その他成分について
しっかり食べればビタミンCの供給源に
ピーマンに含まれる栄養素で特徴的なのは、ビタミンC。成熟するにつれて増加しますので緑の未熟果より暖色系の成熟果の方がビタミンCが多く含まれます。特に赤、オレンジ、黄色のピーマンは野菜類の中ではトップクラスの含有率で、例えば赤いパプリカ1個(可食部160gとして)の1/4を食べたとすると、計算上は約70mgのビタミンCが摂れます。これはイチゴ100g(中7粒=半パック程度)のビタミンC約60mgより成分表上やや多い数値です。さらに、ピーマン類は加熱されてもビタミンCにほとんど変化がありません。成分表のとおり、油炒めによるビタミンCの損失はなく20、長く煮ると煮汁にビタミンCが溶出しますが、煮汁と合計すればほとんど損失がみられません21。
鮮やかな色素はカロテノイド
ピーマンの色素はカロテノイドで、未熟(緑)なうちは、クロロフィル、ルテインなどの成分が多いのですが、熟すとカプサンチン、カプソルビン、ゼアキサンチン、β-カロテン、クリプトキサンチンなどに変化します。カロテノイドにはさまざまな種類がありますが、いずれも抗酸化作用をもつ成分です。
β-カロテン(当量)は色の違いで含有量が異なり、赤、オレンジはそれぞれ1100μg、620μgと、緑黄色野菜に相当する量です。緑のピーマンは400μgと緑黄色野菜として定義されている量よりも少ないのですが、食べる回数や一回摂取量が多いため、緑黄色野菜に含まれます。
※緑黄色野菜とは、カロテンを可食部100g中に600マイクログラム(600μg)以上含む野菜とされています
苦味やにおい、その他の成分
ピーマンの苦味成分は「クエルシトリン」というフラボノイド配糖体(植物に含まれる色素や苦味などの成分)です。クエルシトリン自体は弱いえぐ味でしかないのですが、ピーマンの臭い(「ピラジン」という香り成分)と同時に取り込むことで、脳が「青いピーマン=苦い」と認知するということもわかりました。その証拠?に鼻をつまんで食べると苦味は感じなくなります23。ピーマン特有の青臭い香気成分「ピラジン類」はお茶やコーヒー、納豆やワインなどにも含まれる成分です。
「クエルシトリン」「ピラジン類」には血流改善等の健康機能成分が期待されるていること、それらの成分はピーマン本体よりワタや種に多く含まれているため、捨てずに食べましょう、さらに、ヘスペリジン(ビタミンP)が含まれている、とう表現がインターネット上で散見されたので、その根拠となる文献を検索して含有量などの詳細を確認したかったのですが、探し当てることができませんでした。今後研究成果がわかりやすく公開されたら、さらに種の食味の改良が進んだり、健康成分を多く含む品種が出てくるかもしれません。
調理のヒント
苦味を減らすには
前述したとおり、苦味は種やワタに由来しているようですので、苦味を避けたい場合は取り除いた方が良いとは思います。苦味や口当たりが気にならなければ、完璧に取り除く必要はありません。
また、苦味やアクは繊維を切る(細胞を壊す)量に比例します。縦に切った方が横に切るより苦味は少なくなります。
ピーマンのデータ
分類:果菜類 (a)(b)、なす科果菜類(c)
英名: Peppers, Sweet Paprika(c), Sweet Pepper, bell pepper(d)
学名:Capsicum annuum var. grossum(c)
漢字表記:甘唐辛子(あまとうがらし)(d)
科名:ナス科(d)
原産地:熱帯アメリカ(d)
<出典>
a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)
b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
c)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年12月参照)
d)板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)
■ピーマンの栄養成分
文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』に基づく)*1:レチノール活性等量、*2:α-トコフェロール、*3:ナイアシン当量、( )の0以外の数値は推定値
<出典・参考文献>
- 板木利隆ほか 監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
- 農文協編 野菜園芸大百科 第2版『ピーマン|生食用トウモロコシ|オクラ』農山漁村文化協会(2004年)
- 三村裕.『カラーピーマン』農山漁村文化協会(2002年)
- JAグループとれたて百科 ピーマン https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=12(2023年5月参照)
- JAグループとれたて百科 万願寺とうがらし(万願寺甘とう)https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=149 (2023年5月参照)
- 地理的表示産品情報発信サイト 万願寺甘とう https://gi-act.maff.go.jp/register/entry/37.html (2023年5月参照)
- 農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/ (2023年5月参照)
- 農林水産省「消費者の部屋」(野菜)パプリカはピーマンとは違うのですかhttps://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1011/yasai.html (2023年5月参照)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構.『野菜ブック』(2019年)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構 月報野菜情報https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/index.html(2023年5月参照)
- 国連食糧農業機関 Food of Agriculture Organization(FAO)ホームページhttps://www.fao.org/home/en (2023年4月参照)
- 東京都中央卸売市場 ホームページ https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/ (2023年4月参照)
- 大阪中央卸売市場管理センター株式会社 ホームページ http://osakafu-ichiba.jp/ (2023年4月参照)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構「指定野菜及び特定野菜の生産・流通・消費動向」 https://www.alic.go.jp/y-kanri/yagyomu03_000001_00248.html (2023年5月参照)
- 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
- 内田悟. 『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 改訂版 春夏』KADOKAWA(2022年)
- 小嶋隆三ほか. 『嫌われ食材ワースト5でつくる 美味しい食育レシピ』現代書林(2018年)
- 藤田智 監修. 『やさいのさいばいとかんさつ ③ナス・ピーマン』 学研プラス(2019年)
- やさい畑フォーマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技と』家の光協会(2022年)
- 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
- 桐渕壽子. 日本調理科学会誌 28(3); 210-216, 1995
- 厚生労働省.『「日本食品成分表2020年版(八訂)」の取り扱いについて』(令和3年8月4日健健発0804第1号)
- 森本廉次郎.『成分と育種の研究連携から野菜新品種の開発まで』食品分析センターメールマガジンVol.157(2019年4月) http://www.mac.or.jp/mail/190401/01.shtml (2023年4月参照)
- 新しい食生活を考える会 編著.『食品解説つき 八訂準拠 ビジュアル食品成分表〈2020年版(八訂)〉』大修館書店(2021年)