【冬野菜物語】シュンギク A story of winter vegetables: garland chrysanthemum

シュンギクは日本ではおなじみの野菜。冬は鍋物に使われることが多く、お浸しや天ぷら、サラダなどの材料にもなります。植物としてはキク科に属し、近畿地方では菊菜(きくな)と呼ばれることもあります。一方、欧米では特有の香りが好まれず、食用ではなく花を楽しむために栽培されているのだとか。シュンギクはその香りのおかげで虫が寄り付きにくく、小松菜などのアブラナ科の野菜の「コンパニオンプランツ」として一緒に植えると、アブラナ科の野菜ににつく害虫を防ぐことができるといわれています。虫がつきにくくプランターでもできるようなので、今度の冬に挑戦してみたいと思います。

※野菜の名前について、原則的に「野菜物語」の本文ではカタカナ、レシピではひらがな/漢字で表記していきます

シュンギクの原産地・歴史・種類

地中海沿岸原産だが、食用はアジアが中心

シュンギクの原産地は地中海沿岸とされていますが、野菜としての利用は、アジア、インド、南洋方面の国々のみです。欧米ではその香りが受け入れられず、シュンギクは花を楽しむいわば観賞用。野菜としては中国で改良されたとみられています。「本草綱目」(1596年)によれば、7~8世紀には菜類としての記載があったそうで、以来通常の食品として広く利用されてきたようです。

日本では西日本を中心に栽培されていた

わが国では17世紀末の「農業全書」にシュンギクの記載があります。室町時代には渡来していたらしく、別名がローマギク、ルソンギク、リュウキュウギク、サツマギク、コウライギクなどであったことから、これらの地域から導入されたと考えられています。いずれも名前に「キク=菊」がついていますね。

栽培は江戸時代末期から西日本で始まり、その後、第二次世界大戦後になって関東地方にも広まったようです。食生活の変化に伴い、各種香味野菜の需要の高まりとともに、栽培が盛んになったようです。

東西で異なるシュンギクの品種・種類

葉の大きさによって、大葉種、中葉種、小葉種の3タイプに分けられますが、現在の主流は大葉種と中葉種。また収穫の仕方には、葉を摘み取っていくタイプと、株ごと抜き取るタイプがあります。

大葉種

葉の形が丸く、長さは10~15cmです。ギザギザの切れ込みは浅く、葉肉が厚く柔らかで苦みも少ないのが特徴です。この品種は中国・九州地方を中心に出回り、首都圏ではあまり見かけません。えぐ味が少ないものが多く、サラダにも利用されます。また、下関で古くから栽培されているシュンギクは、ふぐちりの具材としても欠かせない品種とされています。これらの大葉種は、中国南部から渡来し、順化したものと考えられています。

中葉種

栽培の主流品種で、葉に切れ込みがしっかりしているものです。さらに、株張り型と株立ち型に大別されます。中葉種の中には、サラダ用として生食できるものもあります。

株張り型:主に関西で出回る品種です。茎が根元から横に張って育ち、側枝の分岐は多くなります。出荷時には根付きのままか、根元を切り取って出荷されます。

写真は、農林水産省:達人レシピ「菊菜(春菊)」より転用 
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2102/producer01.html

株立ち型:主に関東で出回る品種です。茎が立ち上がって分岐します。上の方の葉を摘み取って丈をそろえ、ひとまとめにしたものを出荷します。摘み取った後も脇芽が次々と生育するため、長期間出荷できる利点があります。

首都圏ではこういう感じで売られていますね(茨城県産シュンギク)

シュンギクの生産地・分布

世界の生産状況

シュンギクに関するFood of Agriculture Organization(FAO)のデータはありませんでした。シュンギクを野菜として食べる国が限られているため、世界全体の生産量についてのデータがないのでしょう。しかし、将来的にはインドや中国、日本以外でもシュンギクの栽培や消費が一般的になればデータが収載される可能性はあります。

国内の生産状況

農林水産省の統計によれば、令和4年度のシュンギクの総収穫量は26,000トンでした。大阪府がトップで3,330トン(全体の13%)。次いで福岡県(9%)、千葉県(9%)、茨城県(8%)、群馬県(8%)と続きました。以降は兵庫県(5%)、広島県、栃木県、埼玉県(同4%)でした。(図)

日本のシュンギクの収穫量26,000トン(令和4年度)内訳 (農林水産省 作況調査 第1報より作成)

その他(16位以降)に含まれる都道府県は以下の通り6。

最も多く出回るのは12月

令和4年の大阪と東京の市場の入荷状況をみると、両市場とももっとも多く入荷された月は12月でした。11月から2月まで頃までが出回りのピークで、大阪市場の場合、大阪府産、福岡県産、和歌山県産が多くを占めます。一方、東京市場では千葉県、茨城県、栃木県、群馬県産がピーク時に多く出回ります。

シュンギクの生産は年々減少傾向にありますが、福岡県だけは増加傾向にありあす。地域ごとに栽培品種が異なることが背景にありそうです。関東では香りが高い反面、長時間煮ることでえぐみが出ることが一般的ですが、関西や九州では苦みが少ないシュンギクが多く、サラダ用もあるとのことなので、消費や需要が生産量に影響しているかもしれません。

シュンギクのすがたかたち・特性

野菜としての特徴

シュンギクは発芽してから、30~40日で収穫期に達するとされています。適切な生育温度は15~20℃で、露地栽培の場合は秋に種をまくと、年内に収穫することができます。冬場にシュンギクを供給しようとすると、工夫が必要なようです。例えば露地栽培で2月に収穫したい場合は、発芽時は寒さに弱いので10月中旬に種をまき、本葉が出てからは低温の状態で越冬させます。しかし、商品としての野菜は冬場の低温に対応するためにハウスやビニールで覆うなど保温性のある環境で栽培されています。なお、土壌への適応性はありますが、連絡障害があるため、翌年も同じ畝で栽培するのは避けた方がよいでしょう。

花が咲いても食べられる?

花が咲いたり蕾ができてしまうと、葉の方はもうおいしくない(苦い、硬い、筋張る)ようです。食べることは可能ですが、畑を日常的にやっている方々はさっさと摘み取り、次の野菜を植える準備をしているようです。気づいたら花が咲いていた…。そんなときは切り花として楽しむのもよいかもしれません。

シュンギクの花。秋に花が咲く一般的な菊に対して、こちらは春に花を咲かせるので春菊(シュンギク)。

どんなシュンギクがおいしいの?

首都圏で売られている株立ち型のシュンギクは、たいてい袋に入った状態で販売されています。そのため、新鮮さを見分けるのはなかなか難しいことがあります。袋から出してみると、少ししおれていたりすることもあります。それでも買うときはよく見て、葉がみずみずしくしっかりしており、強い香りがするものを選ぶようにしましょう。茎は硬くなく、切り口が白くなっていないものが良いとされています。白いものはえぐ味の成分です。根元から抜き取るタイプの場合は、茎が太くて根元まで密集しているものが良いとされています。

シュンギクの保存方法・取り扱い

乾燥を防ぎ冷蔵庫で立てて保存

特に株立ち型で摘み取られたシュンギクは乾燥しやすいため、根元を湿らせたキッチンペーパーなどで包んでポリ袋に入れ、なるべく立てた野菜室で野菜室に入れましょう。3~4日は保存可能です。買ってきたままの状態で室温に置いておくとすぐにしおれてしまうので、ご注意ください。

しおれかけていても大丈夫!翌日には復活するシュンギクの保存方法

私は、このタイプのシュンギクは切り花と同じだと考えることにしています。買ってきたらすぐに袋を開けて根元を水に浸け、枯れかけた部分を取り除いて、さっと水で洗います。包丁では「水切り」できないので、根元1cm程度を切ったら、素早く水に戻して「水揚げ」に似た状態を作ります。しばらくしたら葉についた水分を取り、根元の方をキッチンペーパーで包み、ポリ袋に入れて野菜庫へ。こうすると、買ってきたシュンギクが多少しおれかかっていたとしても、半日から1日待てば元気になっていることが多いのです。

冷凍も乾燥もできる

シュンギクはアクが少ないため、そのまま冷凍することもできます。ただし、洗った後にはよく水分を取り除いて切り分け、1回分ずつ小分けにしてラップで包み、空気を抜いて冷凍庫に入れましょう。とはいえ、個人的には下ゆでしてから使用する方がよい印象です。下ゆでは、さっと湯がいてから冷水にとり、絞ります。食べやすい長さに切り、小分けにして冷凍庫に入れましょう。1か月以内に食べきることをおすすめします。

乾燥させる場合、下ゆでした後にザルに並べて陰干しにします。香りや色飛びを防ぐことができます。日光の当たる時間帯で4~5日干します。完全に乾燥させたい場合は、やさしく煎るか電子レンジを弱めにしてに数十秒かけ(様子を見ながら)、乾いたら乾燥材を入れて保存袋に入れます。乾燥には、ほかにオーブンや家庭用の食品乾燥機を使う方法があります。自分では試したことがないので何ともいえませんが、乾燥機は果物なども干せるはずなので、ちょっと気になっているところです。

下ごしらえ・調理のコツ

シュンギクは葉と茎で分けて扱うことが一般的です。一番下の葉が出ているあたりの茎をつまんで手でポキンと降ります。葉も茎も柔らかいシュンギクは、分けなくても使えます。同じキク科のレタスのように、時間がたつと切った部分が赤っぽく変化しますが、ステンレスやセラミック製の包丁ならすぐには変色することもないので、個人的にはあまり気にする必要はないと思います(鋼製の包丁の方が早く褐変するというのが定説ですが、それがどの程度なのかは未だに不明)。

茎部分はえぐ味が強いので水さらしをして、茎だけでで炒め物にしたり葉と一緒にかき揚げ(→レシピ参照:春菊の天ぷら風揚げ焼き)にするのがおすすめです。鍋物には葉の部分だけを使うとよいでしょう。関東と関西、九州では出回っている種類が異なるようなので、シュンギクの種類に合わせた料理を楽しみましょう。

関西の柔らかいシュンギクを鍋物に使いたいけれど、関東ではほとんど見かけないので、自分で栽培するしかないかな。

シュンギクの栄養・成分ついて

ビタミンA、E、K、葉酸、ミネラル、食物繊維などの供給源

シュンギクは青菜の仲間で、緑黄色野菜に分類されます。可食部100gあたりに含まれる脂溶性ビタミンのA、E、Kの含有量はホウレンソウと並び、野菜類の中ではトップ10に入ります。成分表のデータ上、ビタミンCは冬採りホウレンソウの半分以下ですが、葉酸は生の状態で190μgとホウレンソウの210μgに迫っています。
また、カルシウムやカリウム、鉄や食物繊維の含有量も野菜の中では多く、こちらも生の状態で比較するといずれの項目もトップ10に入っています。ホウレンソウやコマツナだけでなく、旬の間は青菜の仲間として、積極的に食べたい野菜です。

あの香りはリラックス効果も

植物に含まれる機能性を持つ化学物質、フィトケミカルのなかで、シュンギクの芳香成分(テルペン類)としては、α-ピネン、ベンズアルデヒド、カンフェンなど10種類ほどが報告されています。特にα-ピネンは、多くの針葉樹やローズマリーに含まれるいわゆる「森の香り」成分で、リラックス効果が期待できるといわれています。シュンギクとその香り成分についてズバリと記載されている文献は探り当てられなかったのですが、香り成分には発汗作用や消化促進作用がある、といった情報もちらほら目にしました。

シュンギクは、香りと栄養素の両方で注目すべき野菜のひとつですね。

シュンギクのデータ

分類:葉茎菜類 (a)(b), 葉菜類(c)
英名: Chrysanthemum, garland (c)
学名:Glebionis coronaria (c)
漢字表記:春菊、菊菜、菊菘(きくすずな)(d)
科名:キク科(d)
原産地:地中海沿岸(d)
<出典>
a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)
b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
c)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2024年1月参照)
d)板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)

シュンギクの栄養成分

文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』に基づく)
*1:アミノ酸組成によるたんぱく質、*2:脂肪酸のトリアシルグリセロール当量、
*3:レチノール活性等量、*4:α-トコフェロール、*5:ナイアシン当量、( )は推定値

<出典・参考文献>

  1. 板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
  2. 農文協編. 野菜園芸大百科 第2版 第15巻『ホウレンソウ・シュンギク・セルリー』農山漁村文化協会(2004年)
  3. 独立行政法人 農畜産業振興機構.『野菜ブック』(2019年)
  4. 株式会社サカタのタネオンラインショップ ホームページ https://sakata-netshop.com
  5. 独立行政法人 農畜産業振興機構 ホームページ「野菜」https://www.alic.go.jp/vegetable/index.html
  6. 農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
  7. 独立行政法人 農畜産業振興機構「指定野菜及び特定野菜の生産・流通・消費動向」
    https://www.alic.go.jp/y-kanri/yagyomu03_000001_00248.html
  8. 東京都中央卸売市場 ホームページ https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/
  9. 大阪市中央卸売市場 ホームページ https://www.shijou.city.osaka.jp/sikyoportal/
  10. JAグループとれたて百科 春菊 https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=16
  11. 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
  12. 内田悟. 『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 改訂版 秋冬』KADOKAWA(2022年)
  13. やさい畑ファーマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技とコツ』家の光協会(2022年)
  14. 島本美由紀. 『野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!』小学館(2020年)
  15. 日本香料工業会 ホームページ https://www.jffma-jp.org/index.html
  16. 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
  17. 新しい食生活を考える会 編著.『食品解説つき 八訂準拠 ビジュアル食品成分表〈2020年版(八訂)〉』大修館書店(2021年)
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健康のためにはしっかり野菜を食べなきゃ。こどものころからそう教えられ、さらに専門的に学習し、以来、野菜を意識的に摂るようになっています。たぶんそれは、大事なことなんだと思います。ですが、まずはおいしく食べたいものです。おいしかったらきっと楽しいし、たくさん食べたくなります。
お店に並んでいる野菜だけでなく、畑で育つ野菜にも出会って、野菜を知るとおいしく食べられそうな気がしています。

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