【旅する野菜①】メキシコ┃なぜピーマンは辛くないのに、英語では「pepper」なのか。


~種と文化がつないだ命の物語~

種は鳥に運ばれ、人に運ばれ、海を渡り、国境を越えました。その土地の文化と出会い、新しい料理や暮らしを育てながら、世界各地の食文化を豊かにしてきました。
このシリーズでは、歴史・地理・食文化をたどり、小さな種たちが歩んだ旅の物語をお届けします。

唐辛子ロード


四季を通じて、スーパーに並ぶピーマン。

肉詰めや青椒肉絲、炒め物の彩りとして、すっかり日本の食卓に欠かせない野菜になっています。

でも、

「ピーマンの祖先は何ですか?」と聞かれたら?

実は、ピーマンも、パプリカも、ししとうも、万願寺とうがらしも、そしてハバネロやハラペーニョも…。

みんな同じトウガラシ属(Capsicum)の仲間です。

英語では、ピーマンも唐辛子もまとめて 「pepper」 と呼ばれています。

🌶なぜ、ピーマンも唐辛子も「pepper」なの

英語では、

  • Bell pepper(ピーマン)
  • Chili pepper(唐辛子)

と呼ばれます。見た目は似ているけれど、大きさや辛さはまるでちがいますよね。

どうして、今でも世界中で「pepper」と呼ばれているのでしょうか?

コロンブスの勘違い



実はこの「pepper」という名前は、大航海時代の勘違いから生まれました。

1492年、コロンブスは黒コショウを求めて航海に出ました。

そしてアメリカ大陸で出会った辛い実を、

「新しいコショウだ!」と思い込んだのです。

そう思ったコロンブスが手にしていたのは、
実はまったく別の植物でした。

本物の胡椒の実

本物のコショウとは別の植物だったにもかかわらず、その名前だけが残りました。

こうして、コロンブスの勘違いによって、「pepper」という名前が世界中に広まったのです。

では、同じトウガラシ属なのに、なぜピーマンは辛くなく、唐辛子は辛いのでしょう?


🌶辛くない唐辛子?~ピーマンの誕生~

赤唐辛子、青唐辛子


野生のトウガラシの多くは、辛味を持っています。

辛さの正体は、「カプサイシン」という成分。

これは、植物が種を守るために身につけた知恵だと考えられています。

ところが長い年月のなかで、偶然、辛味の少ない個体が現れました。

人々は、

「辛くないものは、食べやすい」

「大きく肉厚の方がおいしい」

と感じ、辛味のないものも選ばれるようになりました。

こうして誕生したのが、現在のピーマンやパプリカです。

特に現在の「ベルペッパー」は、アメリカで盛んに品種改良され、肉厚で大きく、辛味のない野菜として発展しました。

🌶赤ピーマンは、なぜ辛くないの?

緑色のピーマンを収穫せずにそのまま育てると、やがて赤く色づきます。

赤ピーマンは甘みが増し、β-カロテンなどの栄養も豊富になります。

唐辛子と形が似ていても、ピーマンは赤くなっても辛くはなりません。

それは、ピーマンは、もともとカプサイシンをほとんど作らない性質を持っているからです。

ちなみに、「カプサイシン=赤」のイメージが(私には)あるのですが、カプサイシンは白い結晶なので、「赤い=辛い」とはなりません。

🌶青いのに辛い?赤いのに辛くない?唐辛子の不思議

さて、カプサイシンのイメージからか「赤い唐辛子は辛い。」
そう思っている人がいるのではないでしょうか?

ところが実際には、

  • 赤くてもほとんど辛くない唐辛子
  • 青いのに驚くほど辛い唐辛子

が存在します。

実は、唐辛子の辛さは「色」ではなく、品種と育ち方で決まるのです。

唐辛子の辛み成分「カプサイシン」は、実の中の白いワタ(胎座)で作られます。

そのため、

  • ししとう
  • 甘長とうがらし
  • 万願寺とうがらし
  • ピーマン

などは、もともとカプサイシンをほとんど作らないように改良された品種なので、基本的には辛くなりません。

一方で、青いハラペーニョや青唐辛子は、まだ緑色の未熟な状態でも、すでにカプサイシンをたくさん持っています。

つまり、

「赤い=辛い」
「青い=辛くない」

というわけではないのです。

青ピーマン赤ピーマン

🌶なぜ、ししとうの中に「激辛」が混ざるのか?

これは、夏の暑さや水不足、強い日差しなどのストレスを受けると、

植物が自分の種を守ろうとしてカプサイシンを多く作ることがあるためです。

虫や動物に食べられないようにするための、植物なりの防御反応なのです。

そのため、同じ畑で育ったししとうでも、

  • ほとんど辛くないもの
  • とても辛いもの

が混ざることがあります。

あの「ロシアンルーレット」のような体験は、実は植物が生き残るための知恵だったのです。

🌶唐辛子の仲間たち

  • ピーマン
  • パプリカ
  • ハラペーニョ
  • ハバネロ
  • ししとう
  • 万願寺とうがらし
  • 神楽南蛮…

姿も辛さも違いますが、遠い祖先をたどれば、

みんな7,000年前のメキシコで栽培され始めた小さなトウガラシにつながっています。

私たちが食べているピーマンも、唐辛子も、長い「唐辛子ロード」を旅してきた仲間です。

次回は、その旅が始まった古代メキシコへ向かいます。


🌶【予告┃旅する野菜②】 7,000年前のメキシコで生まれた小さな赤い実

なぜ人類は、唐辛子の刺激的な辛さに魅了されたのか。

唐辛子は、人間が最初に育てた野菜の一つといわれています。
なぜこんなにも世界に広がって、何世紀にもわたり人々の食生活に馴染むようになったのでしょうか。
旅は、古代メキシコから始まります。



旅する野菜は、今日もどこかを旅しています。
次回も、日曜日の午前中にお目にかかりましょう。忘れないように、ブックマークしてね。



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山口かをる(畑料理研究家)
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