キャベツは春以外にも年中出回っています。前回の白菜が英語でChinese Cabbageなら、ふつうのCabbageってどうなの?と気になったのと、勝手ながら春のイメージが強かったので春野菜としてまとめました。
Contents
キャベツの歴史・種類
歴史が古く仲間も多い
キャベツはヨーロッパの大西洋や地中海沿岸が原産地とされ、現在でもその地域に野生種が幅広く分布しています。歴史は古く、紀元前2400年頃にはアフリカに出現し、地球の構造プレートの移動に伴って地中海に渡ったと考えられています。その後も交雑を繰り返し、複雑に進化してきました2)。
遺伝学、言語学研究の観点から、キャベツはギリシアで初めて栽培され、ローマ時代には薬草として用いられていたようです。さらにケルト人とともにイギリスに持ち込まれたとみられています。ただし、それはケール(青汁の原料としても知られる)のような結球しないタイプのもの。14世紀のイギリスの料理書には、現在の丸い形の「キャベツ」が、スープの材料として登場していることから、その間にヨーロッパで改良が進んだことがうかがえます2)。
江戸時代は「オランダ菜」とも?!
日本へは江戸時代にオランダ人によって持ち込まれ、「オランダ菜」と呼ばれていたようです。葉ボタンがどうもキャベツに見えるなあと思っていたら、それもそのはず。下図のように、同じ仲間に属していました。

キャベツといえばサラダ、野菜炒め、スープのほか、とんかつ・フライの付け合わせなど、幅広く使える野菜としておなじみです。しかしメニューで連想すると、ロールキャベツ、ポトフ、ザワークラウト、コールスローなど、カタカナの西洋料理ばかり思いついてしまいます。これは、明治以降の洋風化とともに普及した野菜だからかもしれません。
キャベツあれこれ
キャベツは仲間も品種も多く、世界中どこででも入手できる野菜です。日本では、夏は冷涼な気候の地域で育てられ、冬は逆に温暖な地域で栽培されていて、1年を通じて市場に出回っています。通常のキャベツのタイプは、季節によって少しずつ異なります。
春キャベツ(新キャベツ、春玉)
秋冬に種をまき4~6月に収穫します。形は丸く、巻きがやや緩いのが特徴。葉がみずみずしくやわらかいので、生食に適しています。

夏秋キャベツ(高原キャベツ、夏キャベツ)
春に種をまき7~10月に収穫します。生育適温が20℃前後のため夏の時期は高原で作られます 。
冬キャベツ(寒玉)
一般に多く出回っているタイプ。形は扁平で色は薄め。巻きが固く葉がしっかりしています。加熱しても煮崩れしにくく、甘味が出るため煮込み料理にも向いています。
グリーンボール
やや小ぶりのボール型で、春から初夏にかけて出回ります。葉は肉厚でありながら柔らかいという特徴があります。
紫キャベツ(赤キャベツ、レッドキャベツ)
葉が肉厚で巻きが固い品種。 色素はアントシアニンで、酸に触れると鮮やかに発色するためサラダやピクルスにも向きます。

芽キャベツ
葉の付け根の脇芽が直径2~3cmに結球したもの。太く伸びた茎にびっしりと50~60個も付くことから子持ちキャベツとも呼ばれます。ややほろ苦さがあり、バター炒めや洋風煮込み料理に向きます。1年中出回りますが、寒い時期のものは柔らかく、甘味も増します。また、100g中のβカロテン含有量が710μgと高いため、緑黄色野菜に分類されます。ビタミンCも一般的なキャベツの4倍含まれています(章末の成分表も参照ください)。

キャベツの生産地・分布
世界の生産状況
国際連合食糧農業機関(Food of Agriculture Organization:FAO)の統計によると、世界で2023年に生産されたキャベツの総量は約7,838万トン。最も多かったのは中国(本土)で3,555万トン、全体の48%でした。インド、ロシア、韓国、ウクライナと続き、日本は6位でした(図)*。「キャベツ」は白菜も含まれているようですので、なんとなくこの順位に納得です。冷涼な気候で育つことを考えると、インドの場合は高地で生産されているのでしょうね。

世界のキャベツ生産量 約7,838万トン(2023年) 内訳 (FAOSTATより作成)
*The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#data
国内の生産状況
農水省の統計によれば、令和5年度のキャベツの総収穫量は約1,434,000トン。データのある都道府県の中でその割合をみてみると、群馬県がトップ282,900トン、次いで愛知県が272,700トンで共に全体の20%を占めていました。以降は千葉県(8%)、茨城県(7%)と続き、次いで鹿児島県、長野県、神奈川県がそれぞれ同程度の割合でした(図)*。(下図;16位以降は下表参照)。

■その他(11位以降)に含まれる都府県一覧

農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
キャベツの出回り期は?
キャベツが最も出回るのは春
東京都中央卸売市場の令和4年のデータによるとキャベツの入荷量が最も多かったのは4月、次いで、3月、5月となっていました。4月は神奈川県産、5月は千葉県産が最多でしたが、冬季(12~3月)は愛知県産が最も多く、夏季(7~10月)は群馬県産が多く入荷されていました。
大阪市場と東京市場に入るキャベツの主要産地はほぼ同じ
平成29年~令和3年の5か月平均のデータをもとに、東京と大阪の中央卸売市場のキャベツの入荷状況を比較すると、東京への入荷量は大阪の3倍近くに達していました。しかし主要産地の割合に大きな違いは見られず、どちらの市場にも冬は愛知県産、夏は群馬または長野県産のキャベツが多くを占めていました。夏の間に長野県産が多いのは大阪市場で、群馬県産と二分するような勢いですが、東京市場では近さゆえか、群馬県産が優勢でした。
キャベツの選び方
美味しいキャベツとは?
キャベツは白菜と同様に、地上に生えている葉の部分を食べる淡色野菜です。私たちが食べているのは丸く巻いた結球部という内側の部分です。春キャベツは葉がふんわり巻かれているもの、それ以外はしっかりと巻きこんであり、固くてずっしりと重いものがよいとされています。市場に多く出回るのは春ですが、甘味があるのは冬。そのため旬は冬ともいえるでしょう。
新鮮さを見分けるには
カットされている場合は、切り口が変色していないものを選びましょう。丸ごとの場合は外葉の緑が濃く、みずみずしいかどうかがポイントです。また、外葉がついているものの方が新鮮です。農家の方は「ここから食べられる」と考えて出荷している(と思う)ので、外側の葉もなるべく捨てずに活用するとよいでしょう。
取り扱い・保存方法
買うなら丸ごと1個で
用途も広く、比較的長持ちしますので、買うなら1個まるごとがおすすめ。購入してからすぐに使わない時は、外葉のまま新聞紙で包んでおけば鮮度が保てます。夏場は野菜庫に入れてください。
1/2や1/4にカットしたものは、空気に触れる面が変色しますので、なるべく早く使いきりましょう。芯の高さが2/3以内のものがおいしいようです。
1個のキャベツから1枚ずつ葉を剥がして残りを保存するときは、成長点である芯をくり抜き、湿らせたコットンなどを詰めてポリ袋に入れ、野菜庫へ。このとき芯の部分を下向きにしておくとよいです。結球する野菜は中心部に成長点があるので、レタスも同じように芯をくり抜くとよいです(切断面は変色しやすいです)。


※緑黄色野菜は、原則として可食部100gあたりβカロテン当量を600μg以上含む野菜4)
キャベツのデータ
分類:葉茎菜類a)b)
英名:Cabbage, Savoyc)
学名:Brassica oleracea L. var. capitatac)
漢字表記:甘藍、玉名、葉牡丹d)
科名:アブラナ科(結球あぶらな科葉菜類)d)
原産地:ヨーロッパd)
<出典>
a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)
b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
c)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年3月参照)
d)板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)
栄養・その他注目の成分
成分表のデータでは、生の状態の可食部100g(大きめの葉1枚)あたり、カルシウムが43mg、ビタミンCが41mg含まれます。ビタミンCは外葉の方が高く、中葉になるほど低下しますが芯の部分で再び高くなるとされています。芯(茎)は生では硬いですが、刻む、煮るなどで柔らかく食べやすくして食べましょう。捨てたらもったいない部分です。
下表に栄養成分をまとめました。「キャベツ」でも種類によって栄養素の含有量に特徴があります。例えば生の状態では、芽キャベツのビタミンC含有量は一般的なキャベツと比較すると4倍ほどあります。
調理による損失という点では、キャベツの生100gとゆで100gも比較できるようにしましたので参考にしてください。食品成分表の重量変化率をみると89%となっていますので、キャベツのビタミンCはゆでると生の状態の37%になります。
また、キャベツには注目の成分としてビタミンUと呼ばれる抗潰瘍成分が含まれています。胃腸薬のキャベジンはその一成分であるメチルメチオニンスルホニウムクロリドを有効成分とした胃腸薬です(ただ、キャベツを1玉食べたとしても設定された用量には及びません)。とはいえ、キャベツあるいはケールは古代には薬草として食べられていた、という話もありますので、体験的に何らかの効果を感じていたのでしょう。
以上、お手頃価格の旬のキャベツを美味しくたくさん召し上がってください。春キャベツが出回ったら、生食でバリバリ、しゃきしゃきいきたいものです。
キャベツ類の栄養成分

*1:レチノール活性等量、*2:α-トコフェロール、*3:ナイアシン当量、*4:α-トコフェロール、*5:ナイアシン当量、( )は推定値
文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』に基づく)
- 板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
- メグ・ハッケナウプト著、角敦子訳.『キャベツと白菜の歴史』原書房(2019年)
- 国連食糧農業機関 Food of Agriculture Organization(FAO)ホームページhttps://www.fao.org/home/en
- 農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
- 東京都中央卸売市場. 市場統計情報 https://www.shijou-tokei.metro.tokyo.lg.jp/(2022年3月参照)
- 厚生労働省. 健健発0804第1号「日本食品標準成分表2020年の取り扱いについて」(令和3年8月4日)https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T210810H0060.pdfc)(2022年3月参照)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構.『野菜ブック』(2019年)
- 内田悟. 『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 改訂版 秋冬』KADOKAWA(2022年)
- 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
- 吉田企世子 監修.『野菜の栄養素 まるごと便利帳』エクスナレッジ(2020年)
- 本橋登 監修.『からだに効く 野菜の教科書』主婦の友社(2016年)
- 島本美由紀.『野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!』小学館(2020年)
- 医薬品インタビューフォーム『キャベジンUコーワ錠25mg』2021年10月改訂(第7版)