【夏野菜物語】キュウリ A story of summer vegetables: cucumbers

とても短い梅雨を経て急に猛暑がやってきた、と思ったら梅雨が戻ってきたような不安定な気候ですね。すでにバテ気味の方もいらっしゃるかもしれませんね(私です)。そんなときは旬の夏野菜を食べるのがカラダにもおサイフにもよさそう。そこで今回はキュウリのお話です。農林水産省の発表でも、キュウリは令和4年7月のお買い得品目(東京都中央卸売市場出荷)のひとつとして発表されましたので、おいしくたくさん食べましょう。農家さんに感謝、です。

キュウリの原産地・生産地・種類

ヒマラヤから胡の瓜として日本へ

原産地はヒマラヤ山麓の南側とされています。日本語の漢字表記では「胡瓜」と書くことが多いのですが、「胡」は古代中国で西方の異民族を表す言葉のためか、中国語では「胡」は使わず「黄瓜」と表記しています。

江戸時代までは不人気だった?!

キュウリは、白いぼキュウリ(現在最も多く流通している)と黒いぼキュウリに大別されます。最初に日本に伝わったのは黒いぼ系品種で、平安時代の半ば頃に中国から持ち込まれたようです。

江戸時代までのキュウリはへたの部分が苦く不人気だったようですが、明治時代以降、品種改良により苦みの少ない品種が出回るようになりました。今では、食卓に欠かせない野菜として実を食べる果菜類の中ではトマトに次いで第2位の消費量です。

さまざまなタイプがある

世界には500種類ものキュウリが栽培されているといわれ、その大きさも形もさまざま。例えば、よくピクルスに使われる小さいタイプ、いぼのないキュウリ、いぼとしわが多い四川キュウリなどはときどき目にすると思います。また、アメリカやイギリス、ドイツなどで見かけたキュウリは、ズッキーニかと思うくらいの太さで、長さも30cmくらいありました。日本で食べる一般的なキュウリ(長さ約20cm)と比べるとかなり大きい印象です。また、日本ではめったに見ませんが中には球状でトゲトゲの生えたようなキュウリもあり、これはアフリカ原産といわれています。

国内の生産状況

キュウリの主要産地は、宮崎県、群馬県、埼玉県、福島県、千葉県(生産量の多い順:令和3年産実績)です。通年入手可能ですが、多く出回るのは5月~9月頃です。

キュウリの入手・取り扱い・保存など

露地栽培なら夏が旬

キュウリは、露地栽培では夏に収穫する野菜です。今はハウス栽培などにより1年中市場には出回っています。出荷時期によって冬春キュウリ(12月~翌6月)と、夏秋キュウリ(7~11月)に区分されているようです。

立てた状態で保存を

キュウリは、低温に弱く冷やしすぎはNG。冷蔵庫の野菜室で、ペーパーで包みラップかポリ袋に入れて保存しましょう。さらに、ヘタ(ツルを切ったあとのある方)を上にし、実っている状態と同じにして立てておくと水分が抜けにくく、1週間程度はおいしく食べられるようです。寒い冬場には冷蔵庫で保存せずに、風通しの良い冷暗所で保管した方がよいでしょう。

白っぽい粉は農薬?

キュウリは乾燥などから自分の身を守るために、表面に白い粉状のワックス(蝋)を果皮に出します。そうすることで水分の蒸発を防ぐほか、水をはじいて余計な水分が入らないようにしているらしいのです。この白っぽい粉をブルームといいますが、農薬だと思われて敬遠されたり、ブルームのないピカピカな見た目が好まれるようになり、最近市場に出回っているキュウリの多くはブルームのない種類です。ただ、一説によるとブルームのある方が皮が柔らかいとか。

キュウリを買うときのポイント

私たちが普段食べているキュウリは、未熟な実を収穫したものです。ずっしりと重く、全体に張りがあって緑色が濃く、いぼが痛いくらいにピンと張っているものが新鮮。しわが寄っているのは水分が落ちています。また、傷がないものを選ぶようにしましょう。畑のキュウリは曲がっていたりしますが、お店に並んでいるのはほとんどまっすぐですね。形は鮮度とは関係ないので、直売場などでは形は無視して。

ちなみに、キュウリはそのまま畑で育てると黄色く完熟します。皮が固く、シャキッとした食感ではなくなりますがちゃんと食べられます。

キュウリの栄養・成分・調理法について

キュウリには栄養がない?!

生のキュウリは水分が95.4%と、実を食べる野菜類の中ではもっとも高い水分を含む野菜。可食部100gあたりのエネルギーは13kcal、タンパク質は1gで、エネルギーや体をつくるもとにならない、という意味で「栄養がない」といわれているようです(そうなると野菜は全般的に「栄養がない」部類になりますが)*。

キュウリには、水分の他、ビタミンC、ビタミンK、カリウム、食物繊維などがそこそこ含まれています(詳細はデータをご参照ください)。また、昔からキュウリは体を冷やす、むくみをとるなど、といわれています。キュウリを食べるとどのくらい体温が下がるのか、尿量がどの程度増えるのか、などを科学的に検証した学術論文は見当たらないのですが、旬の野菜を夏の暑い時期に食べることは、伝承されているとおり何らかのベネフィットはあるように思います。

*:日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

キュウリでやせる、という話

キュウリは、水分が多くてエネルギーが少ないので、やせたい人にとっては好きなだけ食べてもよい野菜といえます。また、洗ってそのままかじることもできる手軽さもあります。キュウリを食べるときは、たいていしっかり噛んでいます。この、「噛む」ことが満腹中枢を刺激して食事量をおさえることにつながる可能性はあります。

また、脂質分解酵素「ホスホリパーゼ」がキュウリに含まれていることから、ダイエット向きともいわれています。ただ、それについて国内の学術論文を検索しましたがヒットせず。もう少し広げて調べつつ、今後の研究成果を待ちたいと思います。

なお、キュウリだけ食べて痩せようとするダイエットはあまりおすすめできません。摂るべき栄養素が不足するリスクがあるほか、あとで反動のようにお菓子やエネルギーの多い食事を摂りたくなってしまう可能性があります。うまくいった人がいたとしても、全員にあてはまるわけではありませんし、さまざまな要因で日々体調は変化します。キュウリがお好きであれば、食事前半にキュウリのサラダや酢の物などのおかずをゆっくり噛んで食べ、おなかを落ち着かせてから、そのほかのおかずをいただくようにするとよいのではないかと思います。

苦みや渋みについて

キュウリの端っこをかじると、苦味や渋味を感じることがあります。苦味の成分は「ククルビタシン」、渋み(アク)は「ギ酸」。苦味は、成長の途中で虫が付いたり動物に食べられたりしないようにキュウリ自身を守るためのもの、と考えられています。熱に強いので、加熱しても変化しません。苦すぎる場合は食べないようにしましょう。ククルビタシンを大量に摂ると下痢や嘔吐などの原因にもなります。

アクはヘタの部分を1cmほど切ってこすり合わせると減ることが研究でも実証されています11)。また、まな板の上に塩を振り、その上でキュウリを転がす「板ずり」という方法もアクを抜く方法のひとつです。

切り口を合わせてこすると
アクが出てきました

酢の物が合う理由に納得

キュウリには、一般的に「アスコルビナーゼ」と呼ばれているビタミンCを酸化させる酵素が含まれています。ビタミンCを壊して無くすわけではありませんが、この酵素は空気に触れると活性化し、熱や酸により作用しなくなります。酢の物や梅和え、ドレッシングなどの酸はさっぱり感をが出すだけでなく、同時にアスコルビナーゼの働きを抑えてくれるので、夏のおかずにはちょうどよさそうです。

また、ビタミンCは酸化型と還元型があり、酸化型のビタミンCを摂取しても体内では状況に応じて還元型に転換されることがわかっています。

どんな調理法がいいの?

買って食べる場合はやはり生食することが多いのですが、炒めたり煮たりすることもできます。さらに、加工して保存することも多いのがキュウリの特徴。例えば、ぬか漬けやキムチでは10日ほど保存できますし、ピクルスにして瓶詰めにしたり古漬けにすれば数か月保存できます。もちろん浅漬けにして梅やニンニク、ラー油と和えたりすることもでき、バラエティは豊かです。加熱したり発酵させると先のアスコルビナーゼの働きを止めることができ、キムチやぬか漬けのような発酵食品には乳酸菌などの細菌類や酵母を取り入れることもできます。

注意したいのは漬物にしたとき、塩分が高くなること。ぬか漬けの場合、100gあたり(およそ1本分)で生の状態のものと比較すると、ビタミン類がかなり増えていて素晴らしい!のですが塩分は約5g(ほぼ1日の摂取目標量)。そのことをちょっと意識して召し上がっていただければと思います。

キュウリのデータ

分類:果菜類(b) (a)、うり類(c)

英名: Cucumber (c)

学名:Cucumis sativus L.  (c)

漢字表記:胡瓜(きゅうり)、黄瓜(きゅうり)、刺瓜(とげうり)(d)

科名:ウリ科 (d)

原産地:インド、ヒマラヤ山麓(d)

<出典>

a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)

b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)

c)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年3月参照)

d) 板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)

キュウリの栄養素

*1:レチノール活性等量、*2:α-トコフェロール、*3:ナイアシン当量

文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』に基づく)

<出典・参考文献>

1)板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)

2)八田尚子 編.『まるごと きゅうり』絵本塾出版(2021年)

3) JAグループとれたて百科 https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=2

4)農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/

5)独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』(2019年)

6)澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)

7)やさい畑フォーアマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技とコツ』家の光協会(2022年)

8)香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)

9)新しい食生活を考える会 編著.『食品解説つき 八訂準拠 ビジュアル食品成分表〈2020年版(八訂)〉』大修館書店(2021年)

10)女子栄養大学出版部 編.『たっぷり野菜料理』女子栄養大学出版部(1986年)

11) 農研機構 研究情報 https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/vegetea/2009/vegetea09-25.html

MINORI(管理栄養士)

MINORI(管理栄養士)お野菜のこと、もっと知って美味しく食べよう!

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健康のためにはしっかり野菜を食べなきゃ。こどものころからそう教えられ、さらに専門的に学習し、以来、野菜を意識的に摂るようになっています。たぶんそれは、大事なことなんだと思います。ですが、まずはおいしく食べたいものです。おいしかったらきっと楽しいし、たくさん食べたくなります。
お店に並んでいる野菜だけでなく、畑で育つ野菜にも出会って、野菜を知るとおいしく食べられそうな気がしています。

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