子どものころ、日曜日の午前中、父は地球儀の前に私と弟を座らせて、いろんな話をしてくれました。
くるくると回る青い地球。

平らな世界地図では日本が真ん中に描かれているけれど、地球儀を回してみると、
見る角度によって世界の中心は変わります。
日本から見れば遠い国も、別の国から見れば日本が遠い国になる。
そんな当たり前のことが、子どもの私にはとても印象的でした。
地球儀を回しながら想像がふくらんで、どこかに旅をはじめていました。
大人になってからも世界地図の不思議が忘れられず、専門書店でさまざまな地図を探し求めたこともありました。
オーストラリアの逆さまの世界地図を見て、
「天地が逆になっているみたい!」
と驚いたこともあります。
世界には、いろいろな見方がある。
それは地図だけではありませんでした。
食べものもまた、人とともに海を渡り、国境を越え、新しい土地で新しい文化と出会いながら、その土地ならではの味として根を下ろしてきたのです。
カレー。
麻婆豆腐。
キムチ。
トマトソース。
七味唐辛子。


私たちが当たり前のように食べている料理も、その材料となる野菜たちも、
もともとは別の土地で生まれた旅人でした。
その小さな種は、人に運ばれ、ときには鳥や動物たちの力を借りながら、
長い時間をかけて世界中へ広がっていきました。
野菜たちは、自分では歩くことができません。
それでも、種を残し、命をつなぐために、さまざまな知恵を育んできました。
甘い果実。
酸っぱい果実。
辛い唐辛子。


鳥に種を運んでもらうしくみ。
種を守るワタ。
栄養を蓄えた種。
それらはすべて、次の世代へ命をつなぐための工夫です。
そして長い年月のなかで、植物たちは環境の変化に適応しながら姿を変え、
ときには偶然生まれた小さな変化が、新しい品種や文化を生み出してきました。
メキシコで生まれた唐辛子は、インドではカレーになり、中国では四川料理となり、
韓国ではキムチとなり、日本では七味唐辛子や万願寺とうがらしとして人々の暮らしに根づいていきました。


野菜たちの旅は、食文化の歴史であると同時に、生命の進化の物語でもあります。
畑の手伝いをして野菜と向き合うなかで、野菜たちが歩んできた旅と、
その命をつなぐ知恵に心惹かれるようになりました。
野菜は、ただの食材ではありません。
遠い昔から命をつなぎ、人と文化を結び、世界を旅してきた小さな旅人たちです。
一つひとつの野菜には、それぞれのルーツがあり、壮大な物語があります。
この「世界を旅した野菜たち」では、そんな野菜たちのルーツと旅の物語を、
一緒にたどっていきたいと思います。
最初の旅人は、私たちにとても身近な野菜、ピーマンです。
第一章 唐辛子ロード
第一回 ピーマンは唐辛子だった!?(来週公開)

実はピーマンも、7000年前のメキシコで生まれた唐辛子の仲間でした。
7000年前にメキシコで生まれた小さな種。
その旅は海を渡り、国境を越え、やがて日本の食卓へたどり着きました。
そして今、私はその旅について書き始めます。
『世界を旅した野菜たち』
その最初の旅人は、ピーマン。
小さな果実がつないできた、長い長い物語の始まりです。

2026年6月21日 夏至・大安・寅の日・天赦日
この佳き日に、新しい旅を始めます。おつきあいいただけたらうれしいです。