11月に入り、さいたま市の実家近くにあるスーパーの地元野菜コーナーにサトイモの小袋がたくさん並ぶようになりました。旬とはいえ、東京都内ではサトイモが山積みされている光景はほとんど目にしないので、なぜ?と疑問に思っていましたが、調べてみるとなんと埼玉県はサトイモの名産地。そしてサトイモは日本各地に古くから栽培されている、まさにサステナブルな作物。これからたくさん出回りますのでぜひ味わってみていただきたいと思います。
Contents
サトイモの原産地・歴史
サトイモはタロイモ
サトイモがサトイモと呼ばれるのは、山で採れるヤマイモに対して、人が暮らす里で栽培されるからだそうです。原産地は、熱帯のインドから東南アジアとされています。実はサトイモは、現在でもオセアニアやミクロネシアなどの島々、西アフリカの国々での主食「タロイモ」と同じイモ。タロはポリネシア系の言語でイモを意味し、英語表記も“Taro”です。
日本ではイモといえばサトイモ
現代の食生活で「イモ」といえば、ジャガイモかサツマイモを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。サツマイモやジャガイモが日本に伝わったのは18世紀から19世紀頃です。一方、サトイモは稲作が伝わる前の縄文時代に日本に渡来した人々とともにもたらされ、人々の主食になっていたと考えられています。しかし、弥生人が稲作や鉄器とともに日本列島にやってきて、主食が米に置き換わっても、サトイモは雑穀や豆類ともにエネルギー源となる農作物として定着したと考えられています。
また、サトイモは長い間お正月や月見など、年中行事や祭りの儀礼食として日本の多くの地域で使われていたことからも、日本の食文化とも深い関係があり、広く愛されてきた食べ物なのです。
サトイモの生産地・分布
世界の生産状況
Food of Agriculture Organization(FAO)の2020年の統計によると、サトイモ(Taro)の世界総生産量は約1,284万トンでした。その内訳は、ナイジェリアが最も多く25%、次いでエチオピア、中国、カメルーン、ガーナと続きました。日本は11位(1.0%)でした*。今はアフリカでの生産がとても多いことがわかります。
*The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#home
国内の生産状況
日本はサトイモ生産地の北限。低温に強い系統を選び出すなど、長い時間をかけて貯蔵方法や栽培方法を確立した成果といえます。
日本における令和3年度の総収穫量は約142,700トン。国内では埼玉県がトップ。次いで千葉県、宮崎県、愛媛県、栃木県、鹿児島県でした(データのない道府県もあり、以下の割合はデータのある府県の合計から算出したものです)*。
*農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
旬はいつ?
平成25~29年の東京都や大阪府の中央卸売市場出荷状況*を参照すると、1年でもっとも多く出回るのは12月。次いで9~11月、そして1~3月頃です。春先から夏場でも少ないですが供給はあります。
*独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』さといも(2019年)
サトイモのすがたかたち・仲間
どこを食べているの?
イモとして食べるのは茎が肥大した部分です。サトイモの栽培は種芋からスタートします。種芋の上に最初に「親芋」ができ、その周りに多くの子芋、孫芋ができていきます。このように子芋、孫芋と増えていくことから、サトイモは子孫繁栄の象徴であり、縁起のよい食べ物とされています。
サトイモの品種や仲間
サトイモの品種は「土垂(どだれ)」「石川早生(いしかわわせ)」など、主に子芋を食べるタイプが主流ですが、地域ごとに独自の品種があるようです。写真-1はさいたま市産のサトイモで、品種は不明ながら、おそらく土垂系の見沼1号と勝手に推測。また、やや赤みがかりインドネシアから伝わったとされる「セレベス」、京野菜のひとつ「えび芋」なども主に子芋や孫芋を食べるサトイモの仲間です。
実家近くのスーパーでは、地元野菜コーナー以外にも広めにサトイモ売り場が設けてあり、そこには同じ埼玉県内のJAいるま野(埼玉県南西部:入間市・入間郡、川越市、所沢市、飯能市、狭山市などを含む地域)のもの、千葉県産、愛媛県産が多数並んでいました。いずれも品種の記載はありませんでした。ちょうど昨年の今頃、鈴木大地さんが千葉県で里芋掘り体験していました(→ぜひブログも参照ください)。千葉県もサトイモの産地で、「ちば丸」という品種があるようです。
また、さいたま市内の別のスーパーでは、昨年Yoshikoさんがブログ内で紹介していた新潟県五泉市産のサトイモ(→こちらもブログをご参照ください)が目立つように並べられていました。「帛乙女」の記載はありませんでしたが、さいたまの地元野菜ではないという点からか、一種の高級感が醸し出されていました。
他にサトイモの仲間には「八つ頭」があります(写真-2)。親芋も子芋もひとかたまりになっており、頭が8つ(数が多いときの例え)あるように見えることからそう呼ばれるそうです。八という末広がりな数字や、「頭」=トップになるようにという願いを込めて、おせち料理に使われます。ぬめりが少なく、ほくほくした食感です。
「たけのこいも」というたけのこのようなサトイモも親芋系です。九州地方で栽培されることが多く、あまり関東では見かけません。
一方、芋部分ではなく葉柄を食べる「ズイキ」(いわゆる芋がら)もあります。また、芋のまま食べることはありませんが、こんにゃくのもととなる「こんにゃくいも」もサトイモ科です。
ヤマイモ、キクイモは?
ヤマイモも粘りが強い芋ですが、こちらはサトイモ科ではなくヤマノイモ科。いも類の中ではとろろにしたり、サラダや酢の物など、生食できる芋です。細長い長芋、手の平の形のいちょう芋(大和芋)、球形のやまと芋(つくね芋)のほか、山の中に自生するじねんじょ(自然薯)がヤマイモの仲間ですが、呼び方が地域によって異なるので時々話がややこしくなります(ヤマイモの話はまた別の機会に)。
キクイモは、一般的なスーパーではあまり見かけないと思います。かの実家近くのスーパー内、地元野菜コーナーではサトイモの隣にしれっと置かれていました。キク科ヒマワリ属で、ショウガのようなウコンのようなすがたです(写真-3)。サトイモと間違えて買っていく人が絶対にいそうな気がしましたので、ちょっとここで解説(売り場にPOPなどで解説してあったらいいのに)。
キクイモは食品成分表などではいも類に分類されていますが、デンプンはほとんど含まれていません。その代わりに「イヌリン」という水溶性多糖類が含まれています。イヌリンには血糖上昇を抑制するなどの報告があり、機能性がある農産物として研究開発が進められているようですが、日常的に流通する野菜としてはまだいろいろと課題があるようです。
生でスライスして食べるとシャキシャキとした歯触りが楽しめます。おすすめは素揚げや炒めものなどで、えぐみもなくほくっとした感じになります。血糖値に注目した機能性があるのに、油を使った料理でたくさん食べるとエネルギー過剰になりますので、くれぐれもご注意を。
どんなサトイモがおいしいの?
一般的にはバランスのよい形であること、傷やひび割れ、むけがないもの、固くしまっているもの、縞模様がはっきりしているものがよいとされています。
サトイモに含まれるデンプンの粒子はとても小さく、さらにぬめりやその他に含まれる成分の特徴から、加熱するとなめらかでもちもちとした食感が生まれます。
サトイモの取り扱い・保存方法
便利な泥処理済みサトイモ
サトイモといえば泥がついていて当然な気がします。しかし売り場の中には泥を水洗いして軽く乾燥させたサトイモもあります。かのさいたま市のスーパー、地元野菜コーナーの半分くらいは泥処理済みだったように見えました。そこで、JAさいたまに問い合わせたところ、泥の洗浄処理をするかしないかは、生産者の判断であり最近特に増えているということでもない、との回答でしたが、出荷のタイミングをみて泥処理していただけるのはありがたいです。洗浄してあるサトイモを選べば手間が省けるうえ、マンションなどでは洗い流した泥で下水の配管が詰まる心配もないので、便利だと思います。
ポリ袋からは解放し暗いところで、冷蔵庫保存はNG
泥付きのサトイモは、新聞紙や紙袋に入れ、暗いところで保管すると1か月くらいもちます。一方、洗浄してあるサトイモは、生鮮野菜と同じと考えて、買ってきたらなるべく早く使うのが鉄則。古くなると切り口が赤くなったり、ガリガリした食感になっておいしくなくなります。ポリ袋に入れっぱなしでは蒸れてしまうので、新聞紙を敷いた段ボールに入れて保存するのがおすすめです。どうしても冷蔵庫に入れる場合は、キッチンペーパーや新聞紙で包んで野菜室に入れ、低温や乾燥を避けたほうがよい、と前述JAさいたまの担当者さんから洗浄済みのサトイモの保存に関していろいろアドバイスいただきました。
まれに皮の下が緑色になっていることがあります。ジャガイモと違い毒はないので食べても大丈夫です。実際、えぐみやアクが強くなっていると聞いたことがあったので、皮を厚めにむいたのですが、そのときは手もかゆくもならず食べてもえぐみも感じられず、普通に食べることができました。光合成で緑になるので、光が当たらないように保管しましょう。
冷凍保存できます
サトイモは家庭でも冷凍保存が可能です。いくつか方法があるようですが、いただいた、買いすぎたという時に一番簡単なのは、生の状態でよく洗って水気を取り、一つずつラップに包んで重ならないように保存袋に入れて冷凍する、という方法だと思います。ちなみに、市販の冷凍サトイモはむいてから一度湯通しして冷凍してあるようです。もう一手間かけられるのであれば、固めにゆでてから冷凍した方がおいしいでしょう。
解凍は凍ったままレンジでチンでOK。50gのものなら2分程度で熱々に(串を刺してみるなどして調整してください)。または凍ったままゆでるのもOKです。皮は少し冷めてからでもするんとむけます。
栄養素や成分について
ジャガイモやサツマイモと比べてみると
ジャガイモやサツマイモと同様に、サトイモも食品成分表や国民栄養調査では「いも及びでん粉類」に分類されています。しかし、デンプン含有量は8.7%とジャガイモやサツマイモの15~20%と比べて少なく、ビタミンCも100g中6mgほどです。食物繊維やカリウムは同じかやや多めに含まれています*。
デンプン含量が少ないサトイモなので、エネルギーも少ないかと思いきや、サトイモ53kcal、ジャガイモ59kcal。炭水化物として含まれる糖分の組成や性質のせいかもしれません(サトイモの方が果糖やショ糖の含有量が少しだけ多い)。油脂類を多く使わずに調理すればサトイモの方がたくさん食べても摂取エネルギーは少なくてすむかもしれません。(以上はいずれも「生」100gのデータで比較しています*)。*香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
さといものカリウム
いも類は全般的に比較的カリウムが多く含まれます。サトイモ類(サトイモ、ヤツガシラ、セレベスも含む)が最も多く、ジャガイモの1.5倍、サツマイモの1.7倍ほどです*。
カリウムは俗に、「血圧を正常に保つ」「筋肉の働きをよくする」などといわれている成分ですが、腎機能が低下しカリウム制限のある方は、量に注意するとともに、生のサトイモは切ってゆでこぼし、カリウムを減らして食べるようにしましょう。湯通ししてある冷凍サトイモはカリウム含量が少ないものが多いので、チェックして使いましょう。
*香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
さといものぬめり
サトイモのぬめり成分は、アラビノガラクタンという水溶性の多糖類で、サトイモ以外にもさまざまな植物に含まれています。加熱をしても粘りに変化はみられません。
アラビノガラクタンとしての機能性には、免疫賦活作用や腸内細菌叢の改善等の報告があり、サプリメントとしても市販されている成分です。確かに、イモを食べるとお通じがよくなりそうな感じはしますし、ぬめり成分も一緒に食べた方がいいのかもしれません。
粘り成分についてムチンと記載されていることがありますが、ムチンは動物から分泌される粘液の成分のため、植物であるサトイモには含まれないのではないかな、と考えています。
気軽に調理したいけれど下処理が・・・
サトイモは、日本古来の食べ物のイメージから、私自身思いつくのは和食のメニューばかりですが、実は、蒸す、煮る、ゆでる、焼く、揚げる、炒めるなど、幅広く、洋風・中国料理風にも展開できます。いろいろ試してみたいと思います。
しかし、なんといってもサトイモ調理を躊躇してしまうのは、泥の処理、皮をむくときに手がかゆい(シュウ酸がその原因です)、ぬめりとの格闘、が要因ではないでしょうか。私もこれまでサトイモを調理するにはかなり気合いが必要でした。ですが、おいしい国産・地元野菜が旬を迎えている今、食べないのはもったいない。なんとか楽に下処理して食べられる方法を模索してみました。おすすめは皮を加熱してから取り除く方法です。多少ぬめりは出ますが、チクチクはしません。自家用の煮物などであれば、これで十分かと思います
簡単な方法のひとつをご紹介
やはり泥が最初のハードル。もし洗浄済みのサトイモが手に入ったらぜひ試してみてください。もちろん泥付きサトイモでも、洗ったら1.からスタート。
1. サトイモ(洗浄済みならそのまま、泥付きは洗ってから)を鍋に入れ水からゆでる。
2. 3分~5分ほどゆでたら、ざるに上げる。
3.芋の端(広い方)を切り、そこから皮をむく。包丁で(スプーンやバターナイフでも)めくるようにむくことができます。
引っ張ればするするとむけます。
4. 食べやすい大きさに切って調理する。芋の周りについたケバケバ(?)は、お湯で洗い落としてください。
注意:外側のみ加熱された状態なので、ここから煮ると締まって固くなり味がしみにくいため、調理は調味液を温めてから開始した方がよいです。塩分は最後に。
ぬめりは水溶性の食物繊維でもあり、家庭で食べるならあまり落とさなくてもいいかなと思います。
この続きはレシピのコーナーでも紹介しています。ご参照ください。
サトイモのデータ
分類:根菜類(a)(b) いも類(c)
英名:Taro,Dasheen
学名:Colocasia esculenta
漢字表記:里芋(さといも)、畠芋(はたいも)、宇毛(うも)(d)
科名:サトイモ科
原産地:インドなど諸説あり
<出典>
a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)
b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
c) 国民健康・栄養調査、食糧需給表
英名、学名は農林水産省, 作物分類 より引用https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年11月参照)
漢字表記、科名、原産地は参照文献1)より引用
<参考文献>
1)板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
2)松本美枝子.『サトイモ: 栽培から貯蔵、種芋生産まで (新特産シリーズ)』農文教(2012年)
3) 日本農業教育学会 監修. 『イモ ジャガイモ・サツマイモ・サトイモ (めざせ!栽培名人 花と野菜の育てかた⑭) 』ポプラ社(2016年)
4)江原詢子 監修.『日本の伝統文化 和食:3 守ろう!ふるさとの味』学研教育出版(2015年)
5)小川直之 編.『日本の食文化 3 麦・雑穀と芋』吉川弘文館(2019年)
6) 東京農業大学「食と農」の博物館. 展示示案内No.62 『今知られていること、伝えること「タロイモは語る」』(2012年)
7)やさい畑フォーアマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技とコツ』家の光協会(2022年)
8) The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#home
9)農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
10)独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』(2019年)
11)香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
12) 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)