秋冬だいこんのおいしい季節になりました。とはいえ、だいこんは秋冬だけでなく、春だいこん、夏だいこんと年中出荷されていて全国的に栽培されているようです。
冬の野菜は全般的に、寒さで凍ることがないよう細胞に糖を蓄積するため、甘く感じられるのだとか。
※野菜の名前について、原則的に「野菜物語」の本文ではカタカナ、レシピではひらがな/漢字で表記していきます
Contents
ダイコンの原産地・歴史・種類
意外?! 世界古来の野菜
ダイコンは世界的にみて古い時代からある野菜のひとつ。日本のあの「大根」ではなくラディッシュだと思われますが、ピラミッド建設に従事した労働者が食していたという記録があるそうです。
原産地は中央アジア、西アジア、地中海沿岸など諸説あり、その栽培種は世界中に分化して多様に広がったとみられています。日本のダイコンは、おそらくシルクロードを渡って中国大陸で育まれたのち、中国あるいは朝鮮半島から導入されたのではないかと考えられています。いつ頃から栽培されたのかはよくわかっていませんが、日本書紀にダイコンを示す「おほね(おおね)」(該当漢字も諸説あり)という言葉が記されていることから、奈良時代にはすでに存在していたようです。
ダイコンは多種多様
ダイコンを世界的に分類すると大きく5つに別れるのだそうです。資料を基に独自にまとめてみました(表)*。私たちになじみのあるダイコンは、英名でJapanese radish。世界でもまれにみる大型のものです。表:大根の分類
日本のダイコンの種類は豊富で、野菜園芸学から分類すると14とも17種類とも。ここでは、各地方の地ダイコンの有名どころなど、代表的なものをご紹介します。ただ、スーパーマーケット等に並んでいるダイコンは「●●県産」といった表示しかされていませんので、地ダイコンといわれても、特に若い世代ではピンとこないかもしれません。
青首ダイコン
現在の流通の主流である青首ダイコンのルーツは、宮重(みやしげ)ダイコンで、愛知県清洲市春日宮重町が原産地と考えられています。根が土の上にせり上がり、太陽の光を浴びて光合成し緑色になることから「青首」と名付けられました。辛みが弱く甘みがあって水分が多いこと、用途が幅広いこと、収穫時に抜きやすいことなどから全国的に栽培されています。
白首ダイコン
根の全面が白いダイコンで刺身のツマや漬物に多く利用されています。その形で長形と丸形に分けると以下のようになります。
長形ダイコンの例
練馬ダイコン:東京都練馬区たくあん用と煮物用に分かれています。江戸時代徳川綱吉が栽培を命じたのが始まりだとか。大きいものは80cm~1mにもなり、引き抜くのが大変とのことです。現在江戸東京野菜に認定されています。
三浦ダイコン(神奈川県三浦半島):三浦ダイコンは重量があり主に煮物用になります。他に、漬物や大根おろしにむくみの早生ダイコンもあり、これは練馬群と亀戸群の交雑種とのことです。
守口ダイコン:元々は大阪の守口地区周辺で栽培されていたのが起源のようですが、現在は岐阜県各務原市と愛知県丹羽郡扶桑町の木曽川流域で栽培されています。肉質は緻密で堅く、辛みが強いのが特徴。また塩漬け酒粕漬けを繰り返した3年余の年月をかけてできる守口漬は有名です。直径は2~3cm、長さは120~130cmが平均的ですが、191.7cmのダイコンが採れた時には世界一の長さとしてギネス記録に認定されました9)。
亀戸ダイコン:根が30cm程度と短いダイコンで、シャキシャキとした食感で浅漬けにむいています。昭和初期までは東京都江東区の亀戸神社周辺で盛んに栽培されていました。現在は江戸東京野菜に認定され、主に葛飾区で栽培されています。
丸形ダイコンの例
聖護院ダイコン:古くから京都市の聖護院付近で栽培されていました。重さは1~2.5kgで煮崩れしにくく、煮物にむいています。甘くて苦味が少ないダイコンです。
桜島ダイコン:鹿児島県の伝統野菜で、活火山である桜島地域で栽培されている。通常10kg程度の重さですが、さらに大きなダイコンも採れ、31.1kgだったダイコンは世界一重い野菜としてギネスブックに認定されました10)。
その他
赤ダイコンや、赤い丸系ダイコン(ハツカダイコンではない)、辛みの強いからみダイコン、自生種や自生種の変異種などのダイコンが各地に存在します。
かいわれ大根はダイコン?
貝割れ大根とは、ダイコン(品種としては四十日ダイコン)が発芽した直後の新芽で、単に「貝割(カイワレ)」とも呼ばれます。もやしと同様に「芽もの野菜」として分類され、ダイコンとは別ものとして考えます。少し少し辛みがありサラダや冷や奴に使われます。100g中にβ-カロテン当量が1900μg、ビタミンCが47mg含まれますが、サラダのトッピングで使われる量は多くても5g程度です。
ダイコンの生産地・分布
国内の生産状況
日本における令和3年度のダイコンの総収穫量は約1,251,000トンでした。データのある都道府県のなかでその割合をみてみると、千葉県、北海道がトップでそれぞれ12%。次いで、青森県(10%)、鹿児島県(8%)、神奈川県(6%)、と続きました11)。
もっとも多くも出回るのは冬
ダイコンは全国で栽培され、その出荷時期により、春ダイコン、夏ダイコン、秋冬ダイコン、と区分されています。東京都中央卸売市場の場合、気候の異なる全国各地からダイコンを入荷していますが、取り扱い量はどちらかといえば10~2月頃が多く、夏場は少なめ。令和4年についていえば、12月から2月の間はほとんどが千葉県産と神奈川県産で東京市場を二分する状況でした12)。
ダイコンのすがたかたち
根だけでなく茎と葉も食べられる
ダイコンは「大根」なのだから文字通り主に根を食べ、葉も少し食べる野菜、と思っていたら、実は葉っぱに近い部分は茎なのだとか。青首ダイコンを例にとると、葉に近い薄緑色のつるつるしている部分は茎、土の中にあって細いひげのようなもの(側根)が出ている部分が根(主根)。店頭に並んでいるダイコンは洗浄されているので、側根はほとんど見えませんが毛穴のようなブツブツした跡がそれです。
柔らかくて水分の多いダイコンの見分け方は?
すらっとしていて、ずっしりと重みのあるものは柔らかくて水分が多いダイコンです。家庭菜園などではときどき人間の脚を想像させるような形のダイコンができて、面白野菜として話題になりますが、それは石や肥料の塊などの障害物が原因になっているとか。よく耕された柔らかい土ですくすく育ったものはすらっと長く、水分を蓄えたものはずっしりと重くなります。また、水分をしっかり含んでいると皮に張りがあります。
また、ダイコンの側根(ひげ根)の穴もチェックポイントのひとつ。均等な幅でまっすぐに並んでいるものは自然な速度で成長したことを表しているそうです。
ダイコンの食味は部位で異なる
ダイコンは部位によって味が異なります。葉に近い部分は緻密で水分が多く、サラダや酢の物に適しています。真ん中の部分は柔らかく甘味があるので煮物に。先端は辛みが強く、おろしに利用することも多い部位です。
ダイコンの保存方法
畑で保存するときは
真冬でも土が凍らない土地では、植えたまま葉が埋まるまで土寄せして越冬させ、食べるときに引き抜くと新鮮さが保ててよいそうです。
真冬に気温が氷点下になる地域では、引き抜いてから一箇所にまとめ、斜めに寝かして貯蔵することが多いようです。雪室(ゆきむろ)といって、雪を利用した貯蔵庫(ダイコンに限らずいろいろな食品を貯蔵します)も新潟県などでは存在します。新潟県での冬の野菜の保存法の一例を紹介したYoshikoさんのブログもぜひご参照ください。
葉っぱは分離して保存
世帯人数が少ないと1本全部を使い切れないので半分のものを買うことが多いのですが、旬の時期は安価なため、1本買い。葉は根からどんどん水分や栄養を取っていくので、葉は買ってきたらすぐに切り分けましょう。使い切らない分を冷蔵庫で保存するときは切り口をラップでぴっちり覆うか、湿らせたキッチンペーパーで包んでポリ袋などに入れ、立てて保存を。1週間を目安に使い切りましょう。
用途別に冷凍保存するとムダなく時短にも
下の1/3はおろしてすべて小分けにし、冷凍すると焼き魚のお供やおろしソースの素としてすぐに使えて便利です。上の部分は、いちょう切りや輪切り、短冊切りにして冷凍。しゃきしゃき感はなくなりますが、煮物なら早く火が通り味も染みますので時短になります。
おろしのパックは数日後、焼き魚のお供として解凍していただいたのですが、辛みが強めでした。上のほうは甘かったのに。ダイコンにも個体差もあるのでしょう。あるいはおろし方が影響しているのかもしれません。
古来の保存法、干したり漬けたり
ダイコンを切って干したのが「切り干し大根」。買ってきても良いのですが、大量にダイコンがあるなら、輪切りや短冊など自由な形で切って干すのもよい保存方法です。辛みが抜け、味が凝縮します。虫や鳥、あるいは猫などが寄ってこない対策は必要です。
さらに塩蔵加工という方法もあります。日本の漬物原料として、ダイコンは最も多く使用される野菜です。たくあん漬け、べったら漬け、みそ漬け、粕漬け、福神漬け、はりはり漬けなど多岐にわたります。
おいしく食べる調理のコツ
調理法もさまざま
ダイコンの利用方法はいろいろありますが、生食と煮て食べる方法が最も一般的です。部位による味の違いを生かして使うと良いでしょう。生ではおろし、サラダ、酢の物などに使われます。たくあんなどの漬物も基本的には加熱せずに加工します。加熱する場合はおでんやふろふき大根といった煮物が中心ですが、そのほかには焼き物、炒め物などにも展開できます。ただやはり、思い浮かぶのは和風のおかずが多いような。 ふろふき大根やおでんにするときは、皮を厚めにむくとアクや臭みがなくなります。むいたあとの皮は、捨てずに軽く干してみてください。アクが抜けてうまみが凝縮します。そのあとで何かと一緒に炒めると「プラス1品おかず」になります。
味に敏感な人ならきっとわかる、下処理したかしないか
ダイコンは、淡泊とはいえ結構匂いがします。アクも苦味もあります。下処理をしたかしないか、わかる人はわかります。おいしいものを食べたい私はいつも葛藤。面倒だ、時間が、と迷いながらも結局何かしらひと手間をかけてしまうのでした。アク抜きにはいくつか方法があり、干すのもそのひとつ。塩で水分とともにアクを出す、熱湯に通す、などがあります。王道?な方法を一つご紹介します。
お米のとぎ汁で下ゆでする方法
お米のとぎ汁は捨てずにとっておきます。
大根は皮をむいて面取りして、 十字に切り込み入れて・・・、というのが教科書的にはよろしいようです。が、家庭ではなんだかんだで面取りしないのが実情なのではないかしら、と思います。
深めの鍋にお米のとぎ汁を入れ、大根たちを投入。そして点火します。吹きこぼれるのでフタをしないでゆでます。沸騰したら弱火に。
40分くらいゆでて、すっと竹串が通るようであればOK。
湯を捨て、流水でぬかを洗うようにしてその後しばらく冷水にさらします。
ここまで済ませておけば、おでんや、ふろふき大根、大根とさつま揚げの煮物など、いろいろと展開することができます。
栄養素や成分について
栄養素以外の健康成分が注目される根
根の部分は淡色野菜に分類されます。特徴的な栄養素はなく、ビタミンCの含有量も100g中12mgほどです。しかしデンプン分解酵素「アミラーゼ(ジアスターゼ)」、タンパク質分解酵素「プロテアーゼ」、脂質分解酵素「リパーゼ」などの消化酵素が含まれていることが知られています。大根おろしを薬味として一緒に食べるといいよ、といわれているのは消化酵素の効果を期待しているからでしょう。
葉の部分は緑黄色野菜に分類され、根の部分には含まれないカルシウム、鉄、ビタミンA(β-カロテンを含んだレチノール活性等量)、ビタミンK、葉酸、不溶性食物繊維が比較的多く含まれますので、捨てずに活用するとよいでしょう。
なぜ辛い?
ダイコンの辛みは「イソチオシアネート」という成分で、細胞が壊れたときに生成されます。わさびや辛子にも含まれる成分です。
高温になるほど、また、土壌中の肥料が少ないと辛みが多くなるとされ、夏採りのダイコンは辛みが強い傾向にあります。さらに若い大根ほどイソチオシアネートの量が多く、成長するに従って減っていきます。辛みの成分は、胃や腸を刺激して食欲増進につながったり、胃液を増やして食べ物の消化を助けてくれる働きがあります。また、抗菌効果もあることがわかっているだけでなく、がん発症リスクと摂取量の関連性についても研究されています。
大根のデータ
分類:根菜類(a.b.)
英名:Radish, Japanese Daikon, Chinese radish
学名:Raphanus sativus
科名:アブラナ科
原産地:地中海沿岸、西アジア
<出典>
分類:a. 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)b. 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
英名および学名:農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2021年12月参照)
科名および原産地:板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)
■ダイコンの栄養成分 100g可食部あたり(だいこん/根/皮つき/生と葉)
主な栄養素 | 単位 | だいこん/根/皮つき/生 | だいこん/葉/生 |
エネルギー | kcal | 15 | 23 |
水分 | g | 94.6 | 90.6 |
たんぱく質 | g | 0.5 | 2.2 |
脂質 | g | 0.1 | 0.1 |
炭水化物 | g | 4.1 | 5.3 |
ナトリウム | mg | 19 | 48 |
カリウム | mg | 230 | 400 |
カルシウム | mg | 24 | 260 |
マグネシウム | mg | 10 | 22 |
リン | mg | 18 | 52 |
鉄 | mg | 0.2 | 3.1 |
亜鉛 | mg | 0.2 | 0.3 |
レチノール活性当量 | μg | ‘(0) | 330 |
ビタミンK | μg | Tr | 270 |
ビタミンB1 | mg | 0.02 | 0.09 |
ビタミンB2 | mg | 0.01 | 0.16 |
ナイアシン当量 | mg | 0.4 | 1.3 |
ビタミンB6 | mg | 0.04 | 0.18 |
ビタミンB12 | μg | ‘(0) | ‘(0) |
葉酸 | μg | 34 | 140 |
パントテン酸 | mg | 0.12 | 0.26 |
ビオチン | μg | 0.3 | – |
ビタミンC | mg | 12 | 53 |
水溶性食物繊維 | g | 0.5 | 0.8 |
不溶性食物繊維 | g | 0.9 | 3.2 |
食塩相当量 | g | 0 | 0.1 |
*1:レチノール活性等量=β-カロテン当量、*2:ビタミンK=α-トコフェロール、( )は推定値
<参考文献>
- 板木利隆ほか 監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
- 農文協 編. 野菜園芸大百科 第2版『ダイコン|カブ』農山漁村文化協会(2004年)
- 石賀安枝 監修. 『やさいとくだもの-苦手な野菜が好きになるずかん 英語つき-』 東京 スタジオタッククリエイティブ(2020年)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構.『野菜ブック』(2019年)
- 独立行政法人 農畜産業振興機構. 今月の野菜 (2013年)https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/1301_yasai1.html
- 佐々木寿. 独立行政法人 農畜産業振興機構 『だいこんの遺伝資源としての価値と全国の地だいこん』 (2019年)https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1909_chosa02.html
- とうきょうの恵みTOKYO GROWN HP https://tokyogrown.jp/
- JAグループとれたて百科 ダイコンhttps://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=4
- 愛知北農業協同組合 ホームページ 『守口大根』 http://www.ja-aichikita.or.jp/agri/products/daikon.php
- 鹿児島市役所 ホームページ 『桜島大根』 https://www.city.kagoshima.lg.jp/index.html
- 農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
- 東京都中央卸売市場 ホームページ https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/
- 農林水産省「消費者の部屋」(野菜)だいこんhttps://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1011/yasai.html
- 島本美由紀. 『野菜が長持ち&使い切るコツ、教えます!』小学館(2020年)
- やさい畑フォーマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技と』家の光協会(2022年)
- 内田悟. 『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 改訂版 秋冬』KADOKAWA(2022年)
- 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
- 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)