今年も残すところあとわずか。年末になると野菜売り場の様相も変わってきますね。ユズやダイコン、ハクサイ、サトイモ、ゴボウといった旬の野菜のほか、ふだんはほとんど見かけないヤツガシラ、クワイ、ユリネ、京ニンジンなど、おせち料理に使われる野菜類が積み上がっています。今回は冬場に多く出回りおせち料理でも使われる野菜、ニンジンについてまとめてみたいと思います。
Contents
ニンジンの原産地・歴史・種類
シルクロードで東西に広まった
ニンジンの原産地は、現在のアフガニスタン付近で、そこから東西に分かれて広まっていったとみられています。シルクロードを経て元の時代の中国に伝わった東洋系のニンジンは、1600年代には日本にも伝わっていたようです。一方、西洋系のニンジンは900~1000年頃トルコでその原型が確立し、12世紀頃にヨーロッパに持ち込まれたと考えられています。
オランダで改良されたニンジン
今私たちが目にするニンジンの色はオレンジが主流ですが、かつては赤や紫、黄色、白などの色の方が多かったのです。しかし紫色のニンジンなどでは色素が溶け出すことがあり、使いにくさもありました。1500年頃、オランダでオレンジ色のニンジンが品種改良され、変色しにくいことや栽培しやすいことなどから世界中に広がっていきました。日本にも、明治時代になるとヨーロッパ各地から西洋ニンジンが持ち込まれ、現在日本で栽培されているニンジンのほとんどがオレンジ色の西洋種「五寸ニンジン」です。
ニンジンあれこれ
五寸ニンジン
現在の主流の品種。根の長さが15cm前後の円錐形をしています。品種改良により特有の臭さがなく甘みが強くなりました。最近ニンジンは子どもの好きな野菜トップ10に常に入っていて*、嫌いな野菜上位には出てこないのもわかる気がします。ちなみに同じ調査で大人を対象にするとニンジンは嫌いな野菜トップ10に入っています*。子どもの頃のトラウマでしょうか。
*「野菜と家庭菜園に関する調査」(タキイ種苗)
金時ニンジン
京ニンジンともいわれる東洋種のニンジン。これが年末に出回るとお正月だな、と個人的に思います。長さは30cm程度で細長く、赤味が強く肉質が柔らかい特徴があります。この赤い色はトマトにも含まれるリコペンです。
京くれない(R)
五寸ニンジンと金時ニンジンを交配させた中間型で、最近よく見かけます。生食でも柔らかく、おいしい人参だと思います。
カラフルニンジン
レストランや地元野菜コーナーで見かけるカラフルなニンジン。オレンジのほか、黄色、白、赤、紫などがあります。煮ると色素が出てしまうかもしれないことを考えると紫色のニンジンの場合は、サラダやグリルがよさそう。(各色のニンジンに品種名がありますが、今回は省略)。
ミニキャロット
長さが10cm程度の西洋種で、ベビーキャロットとも呼ばれています。甘みが強くにおいも少ないため、スティックサラダやサラダ、付け合わせなどに使われます。一般的な野菜売り場にあるというよりも、冷凍食品になっていたり、家庭菜園で育てるタイプが多いかもしれません。
ニンジンの生産地・分布
ニンジンは世界各国で多く生産される野菜のひとつ。直近の世界および国内の生産状況を解説します。
世界の生産状況
Food of Agriculture Organization(FAO)の統計で世界のニンジンの生産量を調べたかったのですが、なぜかカブも一緒になっていたので、ニンジン+カブの総生産量になりますが、2020年は約4,100万トン。その内訳は中国が最も多く(44%)、ウズベキスタン、アメリカ、ロシア、と続きました。上位15の国をリストアップしたところ、日本は11位(1.0%)でした*。
*The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#home
国内の生産状況
日本における令和3年度のニンジンの総収穫量は約638,800トン。データがない府県もあったので、数字がある範囲でその割合をみてみると、北海道が33%でトップ。次いで千葉県(18%)、徳島県(8%)青森県(7%)、長崎県、茨城県(同5%)と続きました*。北海道と千葉県で全体のほぼ半分を生産しているのですね(図)。
*農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
旬はいつ?
令和3年10月から1年間の東京都中央卸売市場のニンジンの出回り状況を調べたところ、10月と12月、次いで5月にピークがありました*。10月のニンジンは圧倒的に北海道産、12月は千葉県産、5月は徳島県産、さらに7月は全国4位の青森県産が半分以上を占める*など、東京には季節によって異なる産地から通年ニンジンが供給されています。この年末の時期1週間に私が都内で見かけたニンジンの産地は、ほぼすべて「千葉」という表示がありました。
*東京都中央卸売市場 https://www.shijou-tokei.metro.tokyo.lg.jp/
ニンジンのすがたかたち
ニンジンのどこを食べているの?
ニンジンは主に根を食べますが、家庭菜園では収穫の前に間引きするので、ミニニンジンとして根も葉も食べることができます。また、直売所などでも葉付きニンジンが並んでいることがあります。葉は独特の香りと苦味を楽しめる上、根はえぐみなどが少なく食べやすいと思いますので、見かけたらぜひ味わってみてください。ニンジンの葉を使った料理のレシピはこちら。
どんなニンジンがおいしいの?
一般的には芯が小さめでずっしりしたものがよいとされています。ひげ根が多く出ていると過熟になっていることを示しますので、表面はなめらかでつやがあり、でこぼこしていないものがベストな状態。さらに、大根やゴボウも同じですが側面にある溝が成長の様子を表しているので、均等に並んでいるものを選びましょう。肥料を与えすぎたりすると間隔がばらつくようです。
朝鮮人参はニンジン?
ニンジンは中国から伝わったとき、「胡籮葡(こらふく)」と呼ばれていましたがその名前は定着しませんでした。江戸時代の書物の中でニンジンは「世利仁牟志牟(せりにむしむ=せりにんじん)」と記されていました。根が薬用植物の「人参(にんじん)」に、葉がセリに似ていることからこのように呼ばれていたのではないかと推測されています。
薬用植物の「人参」とは、奈良時代に日本に伝わったウコギ科の植物で、これがいわゆる朝鮮人参(高麗人参、オタネ人参)。人参とは、根が地面の下に深く入り人間のような形になるという意味で名付けられました。一方の食用のニンジンはセリ科の植物。当初は形が似ているだけで別物のため「せり人参」のほかにも、「畑人参」や「菜人参」と呼ばれていましたが、いつの間にか区別するための言葉が取れて「人参(ニンジン)」となったようです。
ニンジンの保存方法
野菜庫で立てておく
ニンジンは、湿気を嫌う一方で乾燥にも弱いので、すぐ使わないのであれば買ってきたらキッチンペーパーで包んで保存袋に入れ、立てた状態で野菜室に。泥付きの場合は、そのまま新聞紙で包んでポリ袋に入れて保存します。もし葉が付いていたらすぐに切り落とします(水分や養分が取られるので)。常温で1週間程度もちます。
菜園や畑では植えっぱなしで冬を越すことができるため、食べるときに順次抜いていくことができます。冬は凍らないように細胞に糖を蓄えて甘くなるらしいです。
冷凍保存や干すのもアリ
冷凍の場合、よく使う切り方(いちょう切りや半月切りなど)にして固めにゆで、水気を切って粗熱を取ってから保存袋に入れます。切って生のままでも冷凍可能です。1か月くらいを目安に使い切りましょう。小分けにしておけば必要な分だけ煮物、スープなどに使えます。
乾燥させる、という手もあります。皮をきれいに洗い、千切りにしてザルに広げて風通しのよいところで干すと長もちします。3~4日時々ひっくり返して完全に乾いたら、乾燥剤と一緒に保存袋に入れ、冷暗所で保存することができます。干した人参は水で15分ほどもどせば食べられます。
栄養素や成分について
なんといってもカロテン
ニンジンは、根菜類の中では唯一の緑黄色野菜であり、β-カロテンが多いことが特徴です。皮付き生100gあたり8,600μgと、最も多い部類に入ります。数字の上ではシソやモロヘイヤの方が100gあたり含有量は高いのですが、実際に食べる機会や量を考えるとニンジンからβ-カロテンを摂取することが現実的にはもっとも多くなります。ニンジン1/2本(80g)で、成人が1日に摂取したいビタミンA(レチノール活性等量)を補えます。
ビタミンAは目の健康や皮膚を健康に保つ役割のあるビタミンです。β-カロテンは身体で必要な量だけビタミンAに変換されます。カロテンの呼称はニンジンのCarrotに由来しています。
オレンジ色以外のニンジンでは含まれるβ-カロテンの量は少なくなり、例えば赤味の強い金時ニンジンの色素はトマトと同じリコペンが主体です。紫のニンジンに含まれる色素はアントシアニンです。β-カロテンをはじめ、人参に含まれるこれらの色素は抗酸化物質でもあります。
生のニンジンはビタミンCを壊す?
生のニンジンにはアスコルビン酸酸化酵素が含まれています(アスコルビン酸はビタミンCの物質名です)。大根おろしにニンジンを加えて「紅葉おろし」を作ると、ダイコンのビタミンC(還元型ビタミンC)が壊されて減少する、というような話を聞いたことがあるかもしれません。ですが、この酵素は酸性の環境下働きを失うため、酢やレモン汁などを加えるとビタミンCの減少は抑えられます。
ビタミンCの型には還元型、酸化型があり、還元型とは体内に存在する場合の型です。実はニンジンに含まれるアスコルビン酸酸化酵素は還元型ビタミンCを酸化型に変換するだけで、壊れてしまうわけではなく、酸化型でも還元型でも人体内では同等の働きをすることがわかっています。
どんな調理法がいいの?
どんな料理にもマルチに使える
ニンジンは生でも、加熱してもよく、調理の幅も広い身近な食材です。また、薄切り、千切り、いちょう切り、すりおろす、うらごす、など加工方法も多種多様。ピューレとしてケーキ、ジャム、ジュースなどにも利用されます。最近はジュースの原料としての需要が伸びていて、アメリカやオーストラリアから濃縮ペーストなども輸入されているようです。
野菜ジュースについて
ニンジンをベースにした市販の野菜ジュースはおいしくできていて手軽に飲めますし、野菜が不足した時などにも便利です。しかし、生鮮ニンジンの成分と同じではなく、ニンジンを食べたことと同じにはならないことをお忘れなく。製品としての均一性や品質を保つために酸化防止剤(おもにビタミン類)、糖分や食物繊維が添加されていることもあります。製品によってさまざまですので、パッケージを確認しましょう。
その他レシピはこちら(リンク準備中)
ニンジンのデータ
分類:根菜類(a)(b) (c)
英名:Carrot
学名:Daucus carota
漢字表記:人参(にんじん)、胡籮葡(こらふく)
科名:セリ科
原産地:アフガニスタン
<出典>
a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)
b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)
c) 国民健康・栄養調査、食糧需給表
英名、学名は農林水産省, 作物分類 より引用https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年11月参照)
漢字表記、科名、原産地は参照文献1)より引用
<参考文献>
1)板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
2)八田尚子、大竹道茂監修.『まるごとにんじん』絵本塾出版(2017年)
3) JAグループとれたて百科 にんじん https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=9
4)農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
5)独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』(2019年)
6)澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
7)農文協編 野菜園芸大百科 第2版『ニンジン・ゴボウ・ショウガ』農山漁村文化協会(2004年)
8)やさい畑フォーアマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技とコツ』家の光協会(2022年)
9)香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)