【冬・春野菜物語】ネギ A story of winter/spring vegetables: green onions

ネギといえば、東日本では根深ネギ(白ネギ・長ネギ)、西日本では葉ネギ(青ネギ・小ネギ)、なのだそうです。両方とも店頭に並んでいるので、そういった東西差(?)を気にしていませんでしたが、いわれてみればそれぞれ産地に傾向がありますね。

ネギはショウガやニンニクと同様、料理に必須な「薬味」として辛みや香りを楽しんだり、焼いたり煮たりしてその甘みと水分をたっぷりいただく楽しみもあります。冬は根深ネギ、春には葉ネギをたくさん見かけることから、今回はネギにフォーカスしてみました。

ネギの原産地・歴史・種類

東洋の野菜

ネギもタマネギも同じ祖先であると考えられていますが、ネギはタマネギほど世界的に普及しておらず、中国や日本、朝鮮半島などで多く食される野菜です。原産地は中国西部かシベリアのあたりだと考えられています。

「葱」という漢字は2200年ほど前の中国の書物に出ており、これが今のネギと同じものであれば、かなり古くからある野菜ということになります。日本書紀にも記載があることから、日本へは奈良時代以前に伝わっていたと考えられています。一方、ヨーロッパには16世紀、アメリカには19世紀に伝わったとされています。

中国でのネギは、太ネギ(華北・東北部)、葉ネギ(華中・華南・南洋)、太ネギと葉ネギの中間のような兼用種の3群に大別され、これらがそれぞれ日本に伝わり、気候などに合わせて地域ごとに発展してきたとみられています。

日本のネギの種類

ネギは、その形態から、細長く白い部分を主に食べる「根深ネギ」と長い葉の部分を食べる「葉ネギ」に大別することができます。

根深ネギは、土を寄せて日光を遮ることで細長い白い部分ができます。長ネギ、白ネギ、太ネギともいいます。関東地方でネギといえばこのタイプが主流です。

葉ネギは、緑色の葉身が長いことが特徴。葉身、葉鞘ともに食用にでき、関西で多く食されてきました。小ネギ、青ネギ、細ネギなどとも呼ばれています。

最近では関東でも関西でも両タイプのネギが出回るようになり、用途によって使い分けています。また、中間品種などを含めるとネギの種類は500以上あるらしいです。

主なネギの種類

千住ネギ群(根深ネギ):

夏だけでなく冬にも成長するタイプで、一般的に店頭にならぶ根深ネギはこの系統。千住付近に古くからあったネギを選抜改良して作り出したといわれています。千住とは現在の荒川区と足立区にまたがる地域で、ネギの産地であり千住市場はネギが集まった場所なのだそうです。

根深ネギ(一般的に入手可能なネギ:千葉県産)

加賀群(根深ネギ):

夏に成長し冬になると地上部が枯れて休眠し、積雪下で越冬できる耐寒性に優れたネギです。名前の通り北陸地方、北海道や東北地方などの寒冷地で多く栽培されています。下仁田ネギと呼ばれる品種もこの系統で、葉鞘部が太いのが特徴です。

下仁田ネギ

九条ネギ群(葉ネギ):

九条ネギは約1300年前にその起源をもつとされる葉ネギの代表的品種で、古くから京都市南区の九条周辺で栽培されていたネギです。京野菜としても知られ、京都市内産の野菜のなかでも栽培面積の多い品目の一つです。葉ネギは西日本で多く栽培されています。

葉ネギ(写真は博多万能ねぎ)

ネギの生産地・分布

世界の生産状況

国連食糧農業機関(Food of Agriculture Organization:FAO)の統計から世界のネギ(Onions and shallots, green)の生産量を調べました。2021年の総生産量は約456万トンで、中国、マリ共和国、日本、韓国、チュニジアが生産量の多い上位5か国でした(多い順)*。

世界のネギ生産量 約456万トン(2021年)内訳(FAOSTATより作成)

*The Food and Agriculture Organization (FAO). FAOSTAT https://www.fao.org/faostat/en/#home

国内の生産状況

日本における令和3年度のネギの総収穫量は約440,400トンでした。データのある都道府県のなかでその割合をみてみると、埼玉県が12%。次いで、千葉県(12%)、茨城県(12%)と続きます。以降は北海道(5%)、群馬県(4%)、長野県(4%)、大分県(4%)という結果でした*。収穫量ではなく内訳のため、上位3県の割合(%)が同じ結果になりましたが、出荷量でデータをみるとまた少し違った結果になるかもしれません。

*農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/

日本のネギ収穫量 440,400トン(令和3年度)内訳 (農林水産省 作況調査より作成)

葉ネギは春、根深ネギは冬が旬

東京都中央卸売市場のデータから、令和4年の根深ネギ(ねぎ)の取扱い量は10月から12月がもっとも多いことがわかりました。葉ネギ(こねぎ)については4月、7月に少しピークがありますが年間を通して安定的な取り扱いがあることがわかりました。

東西で好みが分かれるという情報を得たので、もう少し深掘りして大阪府中央卸売市場のデータを確認することにしました。こちらの集計は「白ねぎ」「青ねぎ」と区分されていて、個人的にはわかりやすさを感じました。集計年度と流通量は違いますが、ピークを見るためにグラフ化したところ、大阪も東京と同様に根深ネギの取り扱い量がは12月にピークがありました。

東京都中央卸売市場 ねぎ取り扱い実績(令和4年)
大阪府中央卸売市場 白ねぎ取り扱い実績(令和3年)

一方、大阪での葉ネギの取扱い量は3月、次いで7月にピークがありました。東京と大阪の市場を合わせてみた結果、葉ネギは春先から初夏が旬、と考えてよいのかなと思います。

東京都中央卸売市場 こねぎ取り扱い実績(令和4年)
大阪府中央卸売市場 青ねぎ取り扱い実績(令和3年)

ネギのすがたかたち

ネギの白いところは茎?

根っこと緑の葉っぱの間の白い部分は、茎ではなく「葉鞘(ようしょう)」という葉の部分です。根深ネギは、成長とともにどんどん土を寄せて栽培します。日が当たらず光合成をしないのでその部分が白くなっているのです。

ネギの仲間

根深ネギと葉ネギ以外に、植物学的にネギ属(学名:Allium)に分類されるネギの仲間は、タマネギ、シャロット(ベルギーエシャロット)、ニンニク、ラッキョウ、ノビル、アサツキ、チャイブ、ニラ、ワケギ、行者ニンニク、リーキ(ポロネギ)などがあります。

ワケギやアサツキは葉ネギに似ていますが実はネギとは別物。ワケギはタマネギとネギの交雑種、アサツキは葉が細いため糸ネギと呼ばれることもありますが、こちらもネギの仲間であってもネギではない。英名はchaive(チャイブ)でチャイブの和名がセイヨウアサツキ。ややこしいですが、ないときはお互いに代用できそう。 ワケギとアサツキは根の近くに小さなぷっくりとした鱗茎がありますので葉ネギとの違いが確認できます。といっても、残念ながらあまり流通していませんので見かけたら、ぜひ。

どんなネギがおいしいの?

根深ネギ

白い部分が長く、緑の部分と白い部分の境界線が明確なものは、育てるときに土寄せがしっかりしていた、という証拠。また、巻きがしっかりしていて、光沢があるものを選びましょう。築地御厨店主、内田悟氏の著書をみると、出始めの「走り」と「名残」で違いがあるらしく、名残では巻きが強くなり、辛みより甘みが増すそうです。

また、根の部分は切られている場合が多いですが、切り口が新鮮かどうかと、根の数も要チェック。根の数は白い部分の筋目の数を表していて多いほうがよいとのことですが、なぜよいのかまでは不明。筋目が密で細かいほうが口あたりがよいということでしょうか?これは探して比較検討してみます。

葉ネギ

葉先に枯れた部分がなく、根元から葉先までまっすぐしゃっきりしいていて、色の濃いものを選びましょう。

ネギの保存方法

土付きは使うまで土に埋めておく

畑や花壇、プランターなど、土がある環境なら土付きのネギを入手したら、葉を落とさず白い部分を斜めにして土の中に埋めておけば鮮度が保たれます。雪や霜で緑の葉身は枯れてしまいますが、埋めた白い部分はみずみずしいまま。表面の皮はむいて使いましょう。

長すぎて野菜庫に入らなければ切って保存

根深ネギ

キッチンペーパーや新聞紙に包み、根元に水分補給をして涼しいところで保存。野菜庫に入れるときは長すぎれば、洗って適当な長さに切ってキッチンペーパーに包み、ラップやポリ袋に入れ、口を閉じて野菜庫に入れましょう。できれば立てておきましょう。3,4日で使い切ることが大事です。

3等分してキッチンペーパーに
包んで・・・
ラップ巻き。向かって左を上にして立てる

葉ネギ

買ってきたその日にすぐ使わないときは、袋入りならそのままに。また、JA全農ふくれんのホームページでは博多万能ねぎについて「一度に一袋使わない場合は、根の方から必要な本数だけとって使ってください。保存する場合は冷蔵庫の野菜室に入れてください。」と書いてあります。袋に鮮度を保つ工夫がしてあるようです。

袋なしのときは、さっと水洗いして適当な長さに切り、キッチンペーパーを1枚敷いた容器に入れておくと鮮度が保てます。洗った後の余分な水分をペーパーが吸いとってくれるので容器の中に適度な湿り気ができ、数日間新鮮さを保てます。小口に刻んだ後もこの方法でOK。

冷凍するときは

根深ネギ

斜め切り、小口切などよく使う切り方で保存容器に入れ、冷凍すると便利です。他に1回に使う長さに切って冷凍し、半解凍状態で切るという手もあります。

葉ネギ

薬味用なら小口に刻んで冷凍保存が可能です。私の場合、前述の刻んだ葉ネギは大抵余ってしまうので、2日後くらいにキッチンペーパーを取り除き、容器のまま冷凍庫へ。1時間ほどしたら容器をシャカシャカ振ってネギ同士がくっつかないようにし、これをあと数回繰り返して完全に冷凍されパラパラになったところで冷凍用保存袋に移し替えます。

栄養素や成分について

ネギの成分

栄養学的に根深ネギは淡色野菜、葉ネギは緑黄色野菜に分類されているところから、葉ネギにはビタミンA(β-カロテン)が多く含まれる、という特徴があります。下記の成分表でわかるように、同じ重量で比較するとビタミンB1やビタミンCも葉ネギの方が含有量が多い結果となっています。ちなみに、葉ネギ1束約100g、根深ネギ1本で約100gくらいですので、この量での比較、と考えるとわかりやすいかと思います。薬味というよりも野菜として加熱して十分な量を食べると、相当量の栄養素が摂れます。

前述したように学名にAlliumとついているネギの仲間には共通して、一般的に「硫化アリル」と呼ばれている独特の匂いと辛みの成分があります。栄養素ではありませんが機能性成分として注目されています。

ネギに含まれる硫化アリルの代表的なものはアリシン。細胞を壊すと出てくる成分で、これがビタミンB1を活性化させ、吸収を高める働きがあるといわれています。また、ある種の病原菌やカビに対して抗菌作用を発揮したり、抗血小板凝集作用(血液をサラサラにする作用)がある、ともいわれています。この成分は、空中に放置すると徐々に減少し、加熱すると分解されます。加熱して辛み成分が飛んだ後のネギの甘さは、本来もつ糖質(果糖、ショ糖、オリゴ糖など)に由来します。「アリシン」についてはタマネギのところでも触れていますのでご参照ください。

ネギのヌルヌルはなに?

ネギの葉の内側にはヌルっとした物質があります。この粘性物質は主に水溶性ペクチンによるもので、そこにネギのもつ糖類が含まれた状態です。栄養素でもあるので特に取り除く必要はありません。 さらに、ヒト試験において免疫賦活作用も報告されています15)。この、免疫を活性化させる成分はマンノース結合型レクチン(こんにゃくなどに含まれる多糖類マンナンの構成成分とタンパク質が結合したもの)といい、ネギ自体の感染防御因子として分泌されているもののようです。

ネギのデータ

分類:葉茎菜類 (a)(b) (c) 鱗茎類(d)

英名: Onion, Welsh Leek

学名:Allium fistulosum, Allium porrum

漢字表記:葱(ねぎ)、秋葱(あきねぎ)、岐(き)、漢葱(かんねぎ)

科名:ヒガンバナ科

原産地:中国西部、シベリア

<出典>

a) 野菜生産出荷統計による分類(農林水産省)

b) 日本標準商品分類(総務省 平成2年6月改訂)

c)板木利隆ほか監修, 『野菜と果物』小学館(2013年)

d)農林水産省, 作物分類 https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html(2022年12月参照)

ネギの栄養成分

文部科学省 食品成分データベースより作表(値は『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』に基づく)*1:レチノール活性等量、*2:α-トコフェロール、*3:ナイアシン当量、( )の0以外の数値は推定値

<出典・参考文献>

  1. 板木利隆ほか監修.『野菜と果物』小学館(2013年)
  2. 八田尚子、大竹道茂監修.『まるごと たまねぎ』絵本塾出版(2021年)
  3. JAグループとれたて百科 ネギ https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=8
  4. 農文協編 野菜園芸大百科 第2版『ネギ|ニラ|ワケギ|リーキ|やぐら性ネギ』農山漁村文化協会(2004年)
  5. 農林水産省「作況調査(野菜)」https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
  6. 農林水産省「消費者の部屋」(野菜)ねぎの代表的品種https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1606/01.html
  7. 独立行政法人 農畜産業更新機構.『野菜ブック』(2019年)
  8. 国連食糧農業機関 Food of Agriculture Organization(FAO)ホームページhttps://www.fao.org/home/en
  9. 東京都中央卸売市場 ホームページ https://www.shijou.metro.tokyo.lg.jp/
  10. 大阪府中央卸売市場管理センター株式会社 ホームページ http://osakafu-ichiba.jp/
  11. 澤野 勉, 高橋 幸資 編.『新編 標準食品学 各論[食品学II]』医歯薬出版(2018年)
  12. 内田悟. 『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 改訂版 秋冬』KADOKAWA(2022年)
  13. 平尾由希. 『薬味の魔法』主婦の友インフォス情報社(2016年)
  14. やさい畑フォーマーズ倶楽部 編. 『プロに教わる 野菜の収穫・保存・加工の技と』家の光協会(2022年)
  15. 上田浩史. 野菜茶業研究所ニュース第53号(2014)
  16. 香川 明夫 監修.『八訂 食品成分表〈2022〉』女子栄養大学出版部(2022年)
MINORI(管理栄養士)

MINORI(管理栄養士)お野菜のこと、もっと知って美味しく食べよう!

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健康のためにはしっかり野菜を食べなきゃ。こどものころからそう教えられ、さらに専門的に学習し、以来、野菜を意識的に摂るようになっています。たぶんそれは、大事なことなんだと思います。ですが、まずはおいしく食べたいものです。おいしかったらきっと楽しいし、たくさん食べたくなります。
お店に並んでいる野菜だけでなく、畑で育つ野菜にも出会って、野菜を知るとおいしく食べられそうな気がしています。

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